ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 奇々怪々な御噺 ( No.3 )
- 日時: 2012/01/07 11:14
- 名前: *里奈*. ◆T4kE1oY42E (ID: v1PUoFnc)
第一之幕
一ノ噺
どの木にも桜があり風で舞い散っている、四月の中旬頃。
草木が生い茂るどこにでもある山の中。その中にたたずむ、大きくも小さくもない学校。
その学校の名は奇怪学校。
小学校、中学校が混ざった小中学校と、少し珍しい学校で、全校生徒は今の所、四十八人。
それ以外はどことも変わらないように見えるが、名前のせいだろうか、不思議なことばかりが起きる学校である。
しかし、誰もその不可思議なことには気づいてはいない。
気づいてはいるが、そんなにも気にしていない人も居る。そんな学校に、今日は転校生が来る。
「はい皆さん! 席に着いて下さい!」
この教室は中二専用の教室。小五と同じ人数のクラスで、この学校で最も人数の多いクラスでもある。
先生の声とともに、教室の全員が一斉に自分の席に座って行く。
いつもは先生が教室に入ったと同時に生徒たちを座らせるが、今日は少し違った。
それと同時に、先生の後ろから見知らぬ少年が歩いて来た。
真っ黒な髪に真っ黒な瞳。どちらにも光やハイライトなどは入っていない。
背はこのクラスの中では小さい方で、中性的な顔立ちをしていた。
しかし何故、その顔からは大人びた雰囲気が出ていた。
転校生?、と男女問わず、ひそひそと隣や後ろなど近くの人と話す。
先生がパンパンと手を叩くと、喋り声は無くなり閑静になった。先生が話し始めた。
「今日、この奇怪学校に転校生が転入してきました。名前をどうぞ」
「…羅刹 黒です」
「親の仕事の都合で、暫くはこの学校に居ることになりました。えっと…、たった一年間しかここに居られないんだよね?」
「(頷く)」
「なので皆さん、しっかり仲良くしてあげて下さいね。じゃあ羅刹君の席は…、あっちの窓側の席の一番後ろの所ですよ」
黒と呼ばれた少年は、先生に言われた席へ歩いて行く。自分の席に着くと、鞄を置き椅子に腰掛けた。
そこでチャイムが鳴り、学校の朝のSHRの時間が終わった。
先生が去った瞬間、一瞬のうちに喋り声が飛び交った。人数が少ないのに不思議とざわざわしている。
大体の話題は転校生だが、転校生本人の所には行っていない。
その理由は、面倒くさいからだとかそんな理由であろう。
黒は何をしているかというと、今から荷物整理でもしようかと立ち上がって、鞄の中の教科書と机の上に出し、後ろのロッカーに片付けていた。
すると、一人の少女が彼に近づいて来た。茶褐色の髪色で、肩から少し離れたくらいの髪の長さ。
前髪には今時の女子高生が好きそうな、可愛らしいドクロのピンが二個着いていた。
しかしピンは、前髪に付けているだけで、ピン本来の役目を果たしていなかった。
紫色の瞳は不思議と怪しい光を放っていた。
「……転校生君、だよね」
「さっきの先生の話を聞いてたら分かるでしょ」
「そうだね。私、夕闇 魅蓮。宜しく、って言っておくよ」
「どーぞ宜しく。で、何の用事? さっさと話して」
「宜しくって言ったからさ、友達になりたいな、と思って。友達だよ、と、も、だ、ち…」
「同じ言葉を三回も言わなくても分かるから。てか、何で? 君、このクラスに居ないの? 友達」
彼は教科書やらノートやらを整理しながら言った。どうでもよさそうな感じで。
「そうなるかも。他の学年にならいるけど、ね…。でも、私はこの教室で丁度一人だったんだ。
友達、なろうよ。これから作ろうとすると、結構面倒くさい、よ?」
魅蓮は静かに小さく手を差し伸べた。黒はそれを睨みつけるような目で見ていた。
きっと彼はこっちに来るだろう、と確信はしていたらしい。
暫く二人の間に沈黙が流れる。そして、黒が口を開いた。出した答えは…、
「面倒くさいからいい」
「…理由は?」
「だって、僕は元々一人で居る方が慣れてるし、一人の方が気持ちが落ち着くって言うかなんというか。
兎に角、そっちに行く気は更々無いからさ。さっさと自分の席に戻ってくれる?」
「そっか。遺憾だなあ」
一言つぶやくと、手を引っ込め少し残念そうな顔で黒の顔を少し見ると、彼の席から離れて行った。
やっと一人になれる、と一息つくと、十分休憩の終わりを告げるチャイムが鳴った。
物語は、まだ幕を開けたばかりである。