ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 吸血鬼と暁月 ( No.9 )
- 日時: 2012/07/10 23:09
- 名前: 枝垂桜 (ID: gZQUfduA)
side 竹中半兵衛重治
「沙雨……」
あの日から雨が続いていた。
沙雨と朱音ちゃんが消えた神社で、俺は一人縁側に座っていた。
雨は、まるで二人が居なくなったことを悲しんでいるかのように、しとしとと降り続ける。
今頃あの二人は何をしているのだろう。
……俺はあの時、沙雨を止められなかった。
『化け物が人間になれるとでも思っていらしてるんですか?それなら僕だって──とっくにやってますよ』
あの言葉に込められた孤独。長年、沙雨は朱音ちゃんに嘘をつきとおしてきた。
自分は朱音ちゃんの兄だ──とか。
それは全くの嘘っぱちで。
血もつながっていなければ、本当は元々、人間という種族でもなかったのだ。
もう朱音ちゃんも分かっているかもしれないが──沙雨は吸血鬼だ。
西洋の化け物で、生き血を啜る、おぞましい生き物だ。
──俺もそうだ。
自分も吸血鬼だ。だけど、今は欲を捨て、人間として──斎藤家の軍師・竹中半兵衛重治として生きている。
そんな綺麗事を並べてきた。
実際は血を見ると、喉の渇きが増して、時折自分が抑えきれなくなりそうになる。
沙雨が言った通り、化け物は人間になどなれない。
沙雨は今より三百年も昔、西洋で起こった戦争でスパイとして敵陣に潜り込み、仲間だと思っていた者に裏切られ、半殺しにされて、海へ流された。
しかし運良く、日本の浜辺に流れ着いているところを、ある少女に助けられた。二人はそのうち、恋に落ち、内緒の婚約を結んだ。
──それでも神とは罪なお方で。
その年、その村で百姓一揆がおこり、村は炎に包まれた。村の惨敗は見えていたが、沙雨が愛した少女を相手の武士は半殺しにした。
怒り狂った沙雨は武士の兵を皆殺しにして、村の勝利を収めた。
しかし、村には何一つ残ってなかった。炎で焼かれたあの美しい自然の面影はなくなっていしまった。
少女も目を覚まさず、このままでは死んでしまう、と沙雨はその少女を生かすため、その首筋に己の牙を──
自分はその後、沙雨を探しにこの日本へ来て、沙雨を見つけ、斎藤家に仕えた。
そしてその少女とは────アカネ。そういう名前だった。
朱音ちゃんと全くの同一人物だ。吸血のショックで記憶を失った朱音ちゃんを見て、彼女の負担を減らすため、この記憶は呼び覚まさなかった。
でも沙雨の喉の渇きは限界で──ついて彼はこの間、再び朱音ちゃんの首筋に牙を立てた。
朱音ちゃんはもう堕ちてしまった。彼女自身ももう、人間ではない。我々と同じ種族なのだ。
沙雨は今頃、西洋の国、自らの生まれの国に居るのだろう。
自分も斎藤家が滅びたら、様子を見に行くことにしよう。
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更新久しぶりです。長らくお待たせしました。
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