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Re: 吸血鬼と暁月【完結致しました】 ( No.104 )
日時: 2012/11/06 23:41
名前: 枝垂桜 (ID: tVX4r/4g)




没作『吸血鬼と暁月』 最終章 パッドエンド編


本編とは一切関係ありません。


予告した通りパッドエンド編の更新です。準備は良いですか?


ではどうぞ

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 ずるりと沙雨の腕の中で朱音が崩れた。腕が床にだらん、と垂れ下がる。


 沙雨は呆然として声を掛けた。


「朱音……?」


 心の中で「嘘」とつぶやいた。


 そして今度は首を左右に振って、現実を否定しようとした。


 信じたくなかった。だがしかし、あのやせ細った体に雷が直撃して生きていれる方がおかしい。

 頬にそっと触れると温もりがどんどん消えていく。


「朱音……っ!」


 その細い体を抱きしめて叫んだ。実際、声はショックでかすれていて、「叫ぶ」という表現にはほど遠かったのだが、沙雨は確かに「叫んだ」のだ。


 次の涙が落ちた。涙を流したのは「アカネ」を失いそうになったうの日以来だ。


 すっかり忘れていた。「泣く」というのは、こんなにも胸が締め付けられる事だと言う事を。

 温かい所がなくなった朱音の額に軽く唇を軽く触れさせた。

「人の死」とは余り呆気な過ぎて、いまだに朱音の死を完全に受け入れる事は出来ていない。たとえ朱音が吸血鬼だったとしても、彼女はまだ「なりたて」であった。体も未完成で、「吸血鬼」より「人間」の方に近かったのだろう。


 
「死」がどんなに呆気ないものでもあっても、死者は還ってはこない。呆気なくても、命の一つ一つは重いのだ。


 ただ戦争を繰り返していればその感覚さえも失ってしまう。それはとても恐ろしい事だ。それに今気付いた沙雨は愚かだった。



「還って来て……。もう一度、目を開けて……」


 まぶたを指でなぞってみたが、変化はなかった。

 寂しさより、恐怖の方が大きい。朱音を失う事をずっと恐れ続けてきた沙雨は今、その恐怖と直面しているのだ。


 小刻みに体が震えていた。



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 あれから何時間たったのだろう。


 負傷しながらも帰って来たマーチたちは全員無事で、朱音の死体を見て悲痛の表情を浮かべた。





 沙雨は、ファウストの夜会へ通じる扉があった薔薇園の地面を掘って、その穴の中に朱音の体を寝かせた。


 下半身から土をかけてゆく。あっという間に胸元まで埋まり、残るは顔だけになった。


 朱音の姿を描いた絵はない。もちろん写真もない。すなわちこれは、今生での永遠の別れを表わしていた。


 沙雨は朱音の顔をしっかりと脳に焼き付け、決心が緩まないうちに土をかぶせ、そこに薔薇の花束を添えた。



「さようなら、朱音。─────また来世で」



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 永遠に等しい時を生きる吸血鬼。


 沙雨が次に「朱音」と会うのはそれから400年後の大正時代でした。


 彼女には「朱音」であった時の記憶はなかったものの、二人はしだいに愛し合い、最後は子を成すことになります。


 そして彼女もまた、吸血鬼として第二の人生を送ることとなりました。そして今度こそ二人は、最期まで一緒だったそうです。




 でもこれは、また別のお話………。




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 ありがとうございました。

 バッドエンドは個人的に嫌いなのであまり書きたくなかったのですが、なぜか下書きで一番最初にできました。はい。


 次に更新しようと思っているのは、本編の続きです。短編ですが、頑張ろうと思います。


 あともしよかったら気軽にコメントしてくださいね^^

 感想やアドバイスなどもありがたく受け取らせて頂きます!

 ではまた今度、お会いしましょう。