ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 吸血鬼と暁月【完】 ( No.105 )
- 日時: 2012/11/11 18:15
- 名前: 枝垂桜 (ID: tVX4r/4g)
前回言った通り本篇の続きです。───とは言え、本当の続きではないので、番外編みたいなものとなっております。
今回の話しは、沙雨の過去と家族についてです。
それではどうぞ。
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番外編『吸血鬼と暁月』 脈打つ過去
季節は巡り、夏も本場に入って来た。しかし木々に囲まれ、高い所にあるこの場所は余り暑さを感じない。それでもじわりと首筋に汗をにじませるほど、今日は暑い。
朱音は今、記念すべき第一子を授かっていた。
まだ見た目に変化はないものの、激しい運動は駄目だ。なので最近は神社の外には出ていない。否、元々出た事も多くないのだが、町まで行った事はなく、体力のない朱音はいつも長い階段で挫折してしまうのだ。
そして最近は階段を降りようとすると、沙雨に止められる。大丈夫、と言っても首を振って安静にさせようとする沙雨の姿が微笑ましい。沙雨には父というのが似合うと思う。
そう言えば、朱音の父と母はもう三百年も昔の人、顔さえ覚えていないが、貧しくても自分を大事にしてくれた優しい家族だった。
ふと考え付いて、隣に座る沙雨に向かって口を開く。
「沙雨のお父さんとお母さんってどんな人だったの?」
「僕の両親かい?」
ふっ、と一瞬嫌そうな顔をしたのは気のせいだろうか。
「そうか。朱音は吸血鬼の世界を見た事がなかったね」
朱音は元人間だ。その事を今思い出したように沙雨は告げる。
「僕は両親を覚えていないんだ」
「知らない?」
「うん」
沙雨は頷いて見せた。
「僕が七歳の頃かな。今からもう1500年くらい前だけど、その時に戦争をしてたんだ」
+ + +
今から1500年以上前。吸血鬼の国家が地上に存在していた時代。吸血鬼と死神は戦争をしていた。
その戦争の始まりは吸血鬼の王・ファミルと、死神の最高君主・女神ティフェレトのいがみ合いであった。元々仲が良くなかった二人はある事件を言っ掛けに、完全に決裂。戦争が始まった。
その戦争は二百年の間続いた。始まって間もない頃、沙雨はある町の幼子だった。
ある時、目が覚めると町は炎上していた。目の前で親を鎌で裂き殺された。そして沙雨は死神に捕まり、死神の宮廷に連れて行かれた。
連れて来られて最初に経験したのが薬漬けだった。緑色の液体に何日間も漬けられた沙雨は、吸血鬼の象徴である真っ赤な瞳を失ってしまった。
その時、隣で薬漬けされていたのが久遠だった。彼もまた、その瞳を奪い取られてしまった。
二人は薬漬けによって意図的に遺伝子を狂わされてしまった。
一つはあまり血を欲しなくなったこと。
一つは瞳を青に変えられてしまったこと。
もう一つはそれまでの記憶をなくしてしまったこと。
しかし最後の一つは違った。吸血鬼としての強い力を内に秘めていた二人はその効果を無効化にしてしまったのだ。
その事実を隠して、「死神」の戦力として育てられてきた。
そして今から三百年前、能力を開花させて活躍していた沙雨は戦争に兵として参加していた。
その最中、三人の死神に沙雨が「吸血鬼」ということがバレた。その三人に騙された沙雨は海に流されたのだ。
そして流れ着いた砂浜で沙雨は少女と出会い───……
+ + +
「そうだったんだ……。ごめんね、沙雨。嫌なこと思い出させちゃって……」
「いや、嫌な事じゃない。───薬漬けにされたから、朱音の血をあんまり飲まなくて済む。……朱音に痛い思いさせなくて済むから」
「え?」
「なんでもない」
沙雨の声が小さすぎて聞こえなく、聞き返したが教えてくれなかった。
「今は」
しばらく間をおいてから沙雨が口を開いた。
「今は朱音がいるから、大丈夫だよ」
「本当?」
「ああ。───幸せだよ」
「ありがと」
未だに沙雨の過去は脈打っているが、それはあくまで静かにひっそりと。
沙雨には新しい過去があるのだ。
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ありがとうございました。
そういえば沙雨の過去をちゃんと書いた時がなかったなと思い、出来あがった作品です。
あと朱音と沙雨の間にはしっかり子供が出来る予定です。名前は次のお話まで秘密です(^u^)
どうぞお楽しみに!