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Re: 吸血鬼と暁月【完】 ( No.109 )
日時: 2012/11/26 21:47
名前: 枝垂桜 (ID: DMJX5uWW)




「どこに行くのですか?」


 沙雨は夜遅くにならないと戻って来ない。

 今日も太陽が沈み、暗くなってきた頃、朱璃は一本の太刀を持って神社を出た。


 しかし出た瞬間、マーチと天狐に捕まってしまった。


「どこにって……。ちょっと下町へ」

「……太刀を持って、ですか?」

「うん」


 天狐とマーチの目が細められる。


「下町へ行くだけならば、その太刀は邪魔でしょう。どうぞ、私にお渡しください」



 マーチが手を差し出しながら近寄って来た。朱璃は『血桜』を守るように腕に抱いて、じりじりと後退する。


『血桜』


 12になる頃、父沙雨から貰った、2メートルほどの太刀。

 黒と赤を用いられ、『闇』と『血』を表現した太刀は『血桜』と名付けられている。


 本当は父の愛刀『闇華』を貰うはずだった。母朱音が消えるまでは。

 朱璃が生まれてからは、殺しや戦闘を一切しなくなっていたのだが、朱音が失踪してから、また鞘から刀を抜くようになったのだ。


 しかし『闇華』ほどではないが、『血桜』も呪われた日本刀である。朱璃もまだ使いこなせていないのだ。その為、不用意に使うのは好ましくない。


 最悪の場合、朱璃の魂を吸収しかねないその太刀は、『朱璃の太刀』という名の下、マーチと天狐に管理を任せている。



「最近何をコソコソとしていると思えば、『血桜』を持って下町の人間でも殺しに向かわれていたのですか?」


「違う!」

「では何を?」

「……っ。朱音を探しに」

「朱璃様。彼女は死んではいません。大丈夫です。このまま、我らと幽霊らにお任せ下さい」



 死神は亡き魂を管理するのが元々の仕事である。毎日何百もの名前が『死の名簿』に新しく書き写されていく。


「『ナイトメアが殺した者はその名簿に記録されない』」

「……! いつそれを?」

「ロアが言ってた」

「なるほど。霧亜ロアの開書者である我が主とあなたは血が繋がっていますものね。今や上から3番目の魔導書を開くのも、貴方の血1滴で大丈夫てすものね」

「朱璃殿。しかし貴方にはまだ『血桜』を扱えるほどの力もない。危険です。死んでしまうのかもしれないのですよ?」

「でも」

「───我が主を、独りにさせたいのですか?」


 マーチの顔から笑顔が消えた。