ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 吸血鬼と暁月【楽園の華 オリキャラ募集中】 ( No.124 )
- 日時: 2013/01/13 01:36
- 名前: 枝垂桜 (ID: hVaFVRO5)
沙雨side
───何度壊れてしまいそうになったのだろう。
いつか必ず、そのうちフラリと帰ってくる。そう信じ続けて幾年。いつまで待っても帰って来ない彼女を待ち続けた。
その間、弱く脆くなってしまった心が何度も壊れそうになった。
「僕は………いつの間にこんなに弱くなった?」
独り言同然に呟いた言葉は空気に溶けて、響いたりなどもしない。また静寂が寝床を包み、聞こえるのは自分の呼吸の音だけ。
前は、もっと賑やかだった。
いつの間にか静かなのも嫌いになってしまったのだろうか。
昔は静かな所ほど心地よいところはなかったのに。
「────朱音……」
「……さ、沙雨……」
「………時雨?」
彼女の名前を呟いた瞬間、襖がスーッと開き、雪女であり魔女である時雨が顔を出した。
彼女もこの何百年の間でかなり大人っぽくなった。魔法も上達していたことだろう。
現在の時雨は僕から『集合』がかかるまで自由行動になっている。
しかし時雨は僕より一生懸命と思えるくらい、必死に朱音を探してくれていた。
「入って良い?」
「いいよ───おいで」
「……」
時雨が入って来て、僕の近くにペタリと座った。
「どうしたの?」
「沙雨が倒れたって言うから、びっくりして」
「マーチが言ったの?」
「ううん。アネッサ」
「涙樹が?」
それは驚きだ。アネッサが僕の事を時雨に報告するなんて、ちょっと想像できない。
「でもありがとう」
僕が時雨の髪を軽く撫でてやると、少し照れた様子で、
「子供扱いしないでっ。私はもう一人前なのに」
「そうだね。だけど僕にしてみれば、時雨は赤子だよ」
「まだ〝赤ちゃん〟レベルなの!?」
昔と変わらず、面白い子だ。
「───で、他の用事は?」
「あ……。やっぱりばれてた……?」
「もちろん。勘までもが鈍くなっているわけじゃないよ」
「うん。騙そうとしてごめん」
時雨は一瞬瞳を伏せると、拳をきゅっと握って話し始めた。
「沙雨、現吸血鬼の王様のファミル様に『次の王様になれ』って〝言われてた〟のって……本当?」
「…………」
まさか時雨の耳までに行きとどいているとは。
「……どうなの?」
「───そうだけど。……断ったよ」
「……沙雨、それまだ吸血鬼の国の方は受け取ってないよ」
「なんで?」
「〝主〟が言ってた。……これは、沙雨を王にするために仕組まれた事だっ、てッッッ!!!!」
「─────────!!!」
時雨が振り下ろした短剣を沙雨はすばやく避けた。
視線を向けると、時雨はニヤリと笑って立ち上がった。それは本来『時雨』がする表情ではない。
「君は……誰だ?」
「避けちゃった? 私はマリー。ナイトメアの生き残りよ」
「じゃあお前が朱音を……!」
沙雨は傍にあった闇華を手に取ると、鞘から抜いてマリーに斬りかかった。
「貴方は───私を斬れる?」
────忘れようとしたんだ。
────だけど忘れられなかった。
────愛しい君を。
「沙雨……」
「朱、音……?」
「沙雨、私、沙雨を愛してる……」
「朱音……ッ!」
朱音を抱きしめた瞬間、視界に赤が飛び散った。