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Re: 吸血鬼と暁月【参照1300越え大感謝 オリキャラ募集中】 ( No.131 )
日時: 2013/01/21 21:55
名前: 枝垂桜 (ID: hVaFVRO5)




ちょっと暗めです。


本編終了後の水袮久遠の話。




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 すべてが紅く染まっていた。
 灼熱の炎で焼かれ、苦しみの声を上げる罪人たちが、久遠の目の前に見えていた。


 鬼たちに炎の川で炙られ、泣く泣く溺れて、死んでゆく。しかしここは地獄。何度でも蘇り、生前に犯した罪をすべて償うまで、死んでは蘇生を繰り返す、終わりのない世界。


 同じく見ていた人々が悲鳴を上げ「自分たちもそうなるのか」と青ざめる中、久遠はただ一人鼻を鳴らした。


 皐月と共に地獄に葬られた久遠は、途中で皐月と引き裂かれ、別の場所へ連れて行かれた。




「どこへ行くんだ?」

「閻魔様の所だ。お前たちは特別に閻魔様と会う事を許された」

「誰でも会えるわけではないのか」

「ああ。死者と言っても一日に何百人と来る。それを一人でやっていたらキリがない」

「なるほどな」

「お前、これからとても苦しい思いをするのに、落ち着いているんだな。お前みたいな奴は初めてだよ」

「───何を怖がる必要がある?
自分が自分で犯した罪だ。それはやはり償わなければな」

「面白い奴だ。さあ、とっとと歩け」





 そうだ。何を恐れる。すべては自分が悪い。恨むなら自分を恨め。後悔しても今更遅いのだ。




「ここを通れば大王宮に着く。さあ、行け」



 眼前にあったのは先程見た紅い川とは違い、普通の川。



「この川には人喰いの鬼たちが住んでいる。渡れなかったら、ここがお前たちが罪を償う場所だ。それは閻魔様に会う前に決まったと言う事だ。」




 悲鳴が湧きあがり、誰一人として向こうの岸へ渡ろうとしない。するとしびれを切らしたのか、鬼が



「おら! さっさと行け!」



 と近くにいた人間の女を川に突き落としたのだった。女は泣きながらこちら側の岸に上がって来たが、瞬間、鬼に引きずられて水の中に落ちて行った。

 再び悲鳴が耳を貫き、鳴き声が上がる。




「────これが……〝地獄〟か」

「ああ、一つ言い忘れていたが、あっちに船がある。しかし古くてな。乗れるのは六人くらいだ」




 その言葉を聞いて人々の目が船に向く。まるで道化のようにそこまで走って行き、「私が乗る!」「ふざけるな!」と醜い良い争いが起こった。



「お前は行かないのか」

「言っただろ。自分が犯した罪だ。どうせここで償わなくても、どこかで償うんだ。今閻魔大王とやらに会っても、それは変わらない」

「……そうか」




 気のせいだろうか。鬼の顔が少し笑っていた気がする。

 視線を船に向けると、群がっていた人々全員を川の鬼が水の中に引張って行った。

 逃げようとしている者も全員、水の中に沈んでいった。




「生き残りは、お前だけか」

「いや? 俺は生きていない。死んでいる。あとそれと、お前じゃない。俺は水袮久遠。またの名を、竹中半兵衛重治だ」



 竹中半兵衛の名は、斎藤から出た時に自分に似た者に譲った。とても賢く、欲のない奴に。



「では久遠。閻魔様に会わせよう」




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「お前が水袮久遠か」

「はい」

「生前の愚行で一番大きいのは『幽霊界 王 ファウスト・ブラッドの暗殺』……」

「はい」



 目の前にいる閻魔大王は、その形相で久遠を見る。しかし久遠は負けず、その目を睨み返していた。



「お前は真っすぐな目をしている。ワシが恐ろしくないか」

「いえ。全く」

「それは何故だ」

「私が生前仕えていた女に比べれば、全く怖くなどない」

「なるほどな……」




 それから閻魔大王は「ふぅむ」と考え込む。しばらく時間が経つと顔を上げ、



「お前は一度地獄に落ちた。しかし『王の暗殺』は自らの意思でやったわけではない」

「いいえ。自らの意思です」

「ワシに嘘をつくと、舌を引っこ抜くぞ」

「嘘ではないです」




 数秒間のにらみ合いの末、大王が愉快そうに笑った。



「はっはっはっはっは! 水袮久遠、お前は面白い! 気に入った! お前は他の者とは違うやり方で、罪を償ってもらおう」




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 そうして水袮久遠は地獄の中で『大王秘書』の役職に就き、最も近い大王の傍で嘘をつけないまま、五百年間、罪を償う事になったのです。