ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 吸血鬼と暁月【楽園の華 連載中】 ( No.134 )
日時: 2013/02/03 16:04
名前: 枝垂桜 (ID: hVaFVRO5)






「あらぁ、だめよ〜。逃げようとしちゃあ〜」




 コツ、とブーツの音を立てて現れたのは、漆黒のゴシックドレスに身を包んだ女だった。

 甘ったるい声。たくさんのフリルとリボンがついたドレスの丈は長い。カールしたロングの金髪を揺らしながら、こつりこつりと歩いてくる。



「初めまして、私は楓っていうの」



 『楓』と名乗った女の目は名前が表わす木の如く赤く底光りしている。



「ついでにぃ、皐月の双子の姉よぉ」

「!!」



 『皐月』

 聞いたことがある。以前、魔族の最高君主である『暁月』に躰として選ばれた女。
 しかし『暁月』の消滅と共に彼女の体もなくなってしまった。魂は地獄に落ちたと聞いている。その『暁月』を巡る戦いでは沙雨と朱音も関わっていた。
 そして水袮久遠と言う男に、ファウストを暗殺させた実質の殺人者でもあるのだ。


 その女の───双子の姉。




「お前ナイトメアなのか……!?」

「単刀直入に言うのねぇ。うふふ」

「どうなんだ」



 そこまで言って「いや」と思う。
 楓がナイトメアなら、皐月はどうなんだ? 彼女はただの悪魔だったはずだ。ナイトメアなどと言う特殊な血族ではない。

 それに千年以上前の悪魔によるナイトメア狩りで、生き残ったのは片手の指で数えられるほどの数だ。

 考えれば考えるほど分からなくなる。



「ナイショよ。そっちの方が、楽しいじゃなぁい?」

「……ちっ」


 舌打ちをして、楓を睨む。そしたら「そんな目、痛くも痒くもない」と良いだけに笑ってきた。


 ムカつく。



「貴方の所に来たのは確かに吸血鬼界の使者だわぁ。だけどその五人の後を私の従者がつけていたのぉ。
 五人をまず片づけてから、貴方を気絶させて連れて来てもらったのよ」

「そんな説明いらない」

「うふ。貴方の目は父親譲りねぇ。吸血鬼なのに青いなんて、そそるわぁ」




 楓は朱璃の前にしゃがみ込むと、顔を近づけた。その距離は数センチ。



「───朱音なんてやめて、私にしたらどぉ?」

「……は?」


 思わず聞き返してしまう言葉だった。何を言っているんだ、この女は。



「ねぇ? ───朱璃」

「────ッッッッ!!」



 楓の手が着物の隙間から入り込んで来て、胸の刻印に触れる。瞬間、心臓が激しく跳ねた。

 まるで薔薇の茨が心臓に巻き付き、更に締めつけているかのように痛い。苦しい。


「貴方はずっとずっと……この烙印に縛り付けられる」


 低く、唸るように悲鳴をあげる。楓はそんな朱璃の姿を嬉しそうに見つめながら、言葉を紡ぐ。



「ああっ、その苦しいそうな顔。声。良いわぁ」


 死ぬ。このままだと死んでしまう。
 本能がそう言った。

 確信だった。絶対に死んでしまうと思った。







『朱璃』

 朱音も助け出せずに?




『必ず、生きて帰ってくるんだよ』

 沙雨との約束も守れずに?




────そんなの……許されない。







「イヴ……ッ! この女を……、殺して……ッッ!」




 イヴの主として下した、一つ目の命令だった。





「御意───ご主人様」



 傍で声がした。

 楓の手が離れる。苦しみから解放され、急に入り込んできた酸素にむせかえった。





 そこに立っていたのは、赤い糸を持ち、悪魔として覚醒したイヴだった。







───────────────────────────


マリスルーン様、素敵なオリキャラありがとうございます!

是非使わせて頂きます!

しかもお褒めの言葉(別名・栄養ドリンク)をたくさん下さいましてありがとうございます!