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Re: 吸血鬼と暁月【100越え感謝】【オリキャラ募集中!】 ( No.19 )
日時: 2012/07/22 22:07
名前: 枝垂桜 (ID: gZQUfduA)



 さしていた傘をなめらかに舞下ろす。

 そこから見える余裕の笑みを浮かべた神に向かって、沙雨は身を構えた。

「僕の使命はあくまで、彼女を守ることですからね。───お分かり遊ばせ?」

「全く。今の神はこんなにも人を差別するのかい?」


「まさか。君だけに、特別ですよ」


「いらないよ。そんなもの」


 口調さえ柔らかい物の、空気は今にも張り裂けそうなほど張りつめている。


 どちらが先に手を出すか、分からない状態だ。しかし天孤は───、


「………まったく、血の気の多い方はあまり好かないですね」


 ふっ、と余裕の笑みが消えて、困ったような笑みに変わる。


「───試させてもらいましたよ、沙雨殿」


「僕は君が苦手だよ。天孤」


 沙雨も警戒を解く。まるで今までの出来事が嘘のように、空気が柔らかくなった。


「君は演技がうますぎて、本気なのか嘘なのか分からないよ」


「お褒めの言葉、誠に光栄に存じ上げます」


「一瞬、本当に君と戦った方が良い気がしたよ」


「御冗談を。僕には毛頭そんな気はないですからね。───貴方のことは認めましたが、貴方のことを信じたわけではありません。

 貴方は吸血鬼の身の上、血を彼女に求め、吸う事は許しましょう。しかし、もしも彼女の命を貴方が脅かすならば、その時は〝演技〟では済まされません。

 この僕が天候の神として、そして朱音さんの守護神として、全力で貴方と戦いましょう」



「僕がそこまで堕ちないことを祈っていてくれ。大神 天孤」


「───諾」


 そう言い残すと、天孤はまた陰に溶けて、今度は影も見えなくなった。

 朱音の呼吸が聞こえてきて、なぜかそれを聞いて落ち着く。


「朱音………、どうか僕を許して。受け入れて、僕を」


 眠る朱音のベットに膝を乗せ、右手で朱音の頬を優しく撫でる。


「───愛してる。………今はまだ、これしか言えない。愛してるより、もっと僕の気持ちを伝えることができる言葉が見つからないよ」


 大切な大切な、沙雨の宝物。脆く、壊れやすいからこそ、いつも自分の手で守ろう。

 不意に、カーテンがふっ、と揺れた。そして、下がる頃にはそこに、一人の女性が座っていた。


「愛してる、ね。良い言葉だわ。………でも、愛とは以外にも脆い物よ。すぐ壊れて、崩れてしまうもの」



「そうかな」


「あなたはまだ愛を知らない。本当の愛は、紅くて、黒くて、痛いやけどよ」


「ご忠告どうも。皐月」


 皐月と呼ばれた女性は、顔のパーツを一つも動かさない極度の無表情だった。


 沙雨と同じ、ゴシックに身を包んでいる。



「また来るわ。私はいつでも───貴方が堕ちるのを待っている」


 皐月は後ろへ倒れるように窓から消える。


 しかし下に叩きつけられる音もしなければ、着地する音もしない。


 まるでそのまま、消えてしまったかのように。


 沙雨は朱音の前髪を優しくかきあげて、そっ、と額に口づけをした。


「おやすみ」


 静かにそう言うと部屋を出て行った。



───君の素顔を見せてほしい。───朱音。