ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 吸血鬼と暁月【第二次オリキャラ募集中!】 ( No.60 )
- 日時: 2012/08/16 14:54
- 名前: 枝垂桜 (ID: gZQUfduA)
アネッサのその無表情さは何か難しい事でも考えているのでは、と通りすがりの人が思わさせるだが、実のところ何も考えていなかった。
それに加えて、この日本ではほとんど目にしない装束の為か、酷く目立っていた。
不快に思った彼女は村人たちを一瞥して、場所を変えようと歩き出した。
朱音たちの住んでいた神社は三百段もある階段を登ったところにあった。
『神社は神の座。神に近いほど、神の加護は強くなる』そう言って、あんな高い所に神社を立てたのは、ある女だった。
彼女は陰陽師だった。神を崇拝していた。彼女は六芒星の形になるよう、桜の木を六本植えた。
そしてあの桜は五百年の月日を過ごした。彼女が亡き後も、神社を守り続けた。そして、一番大きい桜の木には、いつしか精霊が宿った。
あの神社は精霊と神の御加護があり、いかなる災害からも逃れ続け、今も、五百年前のあの姿のまま残っている。
神は沙雨を───死刑台に立たせようとなさっているのだろうか。
生涯を無理矢理閉じさせるほどの大きな罪を、彼はそのうち起こすのだろうか。
まだ視えない。視えない。足りない。自分にはもっと強い───……、
「それは欲?」
階段を登りつめたところで、不思議な声が耳に流れ込む。
しかし辺りを見回しても誰一人としていない。そしてああ、と思った。
ここには六本の桜。今は葉桜。
「───そうよ。欲よ」
「なるほど。それは人間の得意技だね」
「いいえ。技ではないわ。……本能よ」
「本能」
不思議な声はアネッサの言葉を繰り返す。アネッサは軽く頷いた。
「欲しい物がたくさんありすぎる。欲は消えないのよ。欲をなくしたときはもう人間ではない。───欲をなくす時は『死』が訪れた時よ」
「賢いお譲さんだね。未来を視るお譲さん」
次に瞬きをしたころには、神社の縁側に青年が座っていた。
色の白い肌。透明な青い目。黒い髪。淡い緑色をした着物を纏って、片手には盃を持って、酒を飲んでいる。
アネッサはその男の正体が分かっていたので、特に驚かなかった。
「桜の精」
「花染衣」
「種類?」
「私の名前」
花染衣。アネッサが言った事も間違っていない。確かにここに植えられている桜の種類だ。花が大きい、綺麗な桜だ。
この青年の名前でもある。
「綺麗な花ね」
「ありがとう」
「心からの感想を言ったまでだわ。感謝の言葉なんていらない」
「お譲さん、こういうものは受け取っておくべきだよ」
にこにこと笑いながら花染衣は言った。
「飲む?」なんて言って盃を差し出すが「冗談でしょ」と一掃された。
「私はまだ十二よ」
「あ、そうなの。若いのに、そんな眉間にいっぱいしわ寄せて。───老けるよ」
「余計なお世話よ」
さすがのアネッサも先程の言葉にはムッときたのか、更にしわが増えた。
やれやれといった様子で花染衣はまた一口酒を飲む。
「お譲さんは不思議な格好をしているね」
その美しい顔に、ふわりと微笑みが浮かぶ。
「これはゴシックワンピースというものよ。西洋の服」
「なるほど。見かけないわけだね。似合ってる」
「そう」
たいして興味なさそうな返事を返す。
「お譲さん」
「涙樹アネッサよ」
「涙樹はどうして未来が視えるのか知っているかい?」
「それが必要だったから」
「まあ正しいね。きっと神は、涙樹の信じる正義を貫かさせる為だけに、全知全能の一欠片を与えたのではないと思うよ」
「どういうことかしら」
少し気に障る言葉だったらしく、アネッサは花染衣へあまりよくない視線を向ける。
しかし花染衣はそんなものなんでもないという具合で言葉をつづけた。
「きっと他に理由があるってこと」
「だからそれは何」
「さあ。知りたかったら朱音を追いかけてみることだね。きっと答えは見つかるよ。暇だったら、また私のところに来ると良い」
するとやはり瞬きの間に、花染衣は消えてしまった。