ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 吸血鬼と暁月【第二次オリキャラ募集中!】【参照400突破】 ( No.66 )
- 日時: 2012/08/26 10:23
- 名前: 枝垂桜 (ID: xPtJmUl6)
隠れ家に残ったマーチと時雨は、桔梗と言う男について寧々から聞いていた。
「なるほど、神威桔梗は寧々さんの双子のお兄様であり、同じ悪魔であり、ある日寧々さんを置いて忽然と姿を消し、寧々さんは桔梗さんが嫌いだと」
「そういうことじゃ」
あらかた説明した寧々の言葉をマーチは簡潔に整理した。
先程の桔梗の態度と、今の寧々の説明から考えて、寧々は桔梗の事を嫌っているが、桔梗は寧々の事を好きらしい。
しかも酷く似ている。寧々に似て美形だ。
「なぜあの人は沙雨に付いて行ったの?」
「さて……。───我が主は『朱音が近くで泣いている』、と言っていましたね。私は何も聞こえませんでしたが……」
沙雨に聞こえるはずの音がマーチに聞こえないはずがないはずだ。
───そのはずなのだが……、
「寧々さんの目に施されていたという術も消えましたしね……。きっと朱音さんは助け出されたのでしょう」
突然目に違和感を感じた寧々が包帯を取ると、そこには綺麗な瞳があった。
目が潰されていると思っていたマーチは、当たり前のようにある瞳に驚き、あの日、沙雨の部屋で何があったのか聞いた。
するとなんらかの術を施されていたという。
「───ただいま」
ガチャリとノブが回る音と共に扉が開き、朱音を横抱きにした沙雨と桔梗が姿を見せた。
寧々と時雨は朱音の姿を見て目を見開いた。マーチもその微笑みは崩さなかったものの、眉が一瞬動いていた。
肌は隙間なく紫色に染まっていて、頬や手に飛び散った血が付着していた。
寧々はその紫色が猛毒だと分かっていたので、一番青ざめた。恐らく致死量ちょっと前の毒漬けなのだろう。
あの時、沙雨以外の誰にも聞こえなかった朱音の泣き声を聞いていなかったら、今頃朱音は死んでいたのではないのだろうか。
「お、おかえり。あ…あ…、えっと……」
混乱して自分の思いを言葉にできない時雨を見て、沙雨が柔らかく微笑んだ。
「朱音なら平気だよ。今から毒を抜くから、……っ」
最後に首に手を添えて苦しそうに顔をしかめると言う不自然な仕草を見せた。
時雨が首を傾げる。
「どうしたの?」
「いや、なんでもない。 今日はもう部屋から出ないと思うから。 あと、僕の部屋にも入らないでくれるかな」
「あ、うん。分かった」
「マーチも、よろしく。 寧々、桔梗卿とよく話し合うんだよ」
あからさまに嫌な顔を見せた寧々に、細く微笑んで部屋に戻って行った。
「桔梗さん、でしたか」
「勝手に名前を呼ぶな」
「……失礼致しました。 ただいま天狐さんが食事を作っておりますが、お食べになりますか?」
「いらん」
「左様ですか」
死神が嫌いなところは兄妹そろって似ているようだ。
孤独を嫌う寧々はマーチにも少しだけ馴染みを見せているが、桔梗のこの態度では、反対で孤独を好んでいるように見える。
ただし、かなりの妹馬鹿だ。
しかしマーチはそんな事気にしないので、気にすべきことではなかった。
「天狐……。大神 天狐か。天候の神の……」
悪魔と神は全くの正反対であるが、桔梗は天狐の存在を知っているようだ。
神と悪魔は正反対だが、悪魔の宿敵は天使だ。
天使は悪魔を退治する任を神から受ける。特に能天使と呼ばれる天使の種類は悪魔退治を専門的に行うので堕天しやすいといわれる。
逆に悪魔と死神は魂を扱う者同士、協力すべき種族だ。基本的には仲間同士という意識が高い。しかし珍しい事に、寧々と桔梗は悪魔を酷く毛嫌いしている。
過去に何かあったのだろうかと思わせるほどだった。
吸血鬼はむしろ孤独の種族であるのだが、魔族とは全般的に仲が良い。
魔族と天族は敵同士なので、沙雨のように神を仲間に───否、配下に置いている吸血鬼は恐らくこの世で沙雨だけなのであろう。
吸血鬼は地への欲望が酷く、その分愛している者への情が深い。そして独占欲も強いのだ。
「すみません。遅くなりましたが、できました。どうぞ」
天狐が顔を見せ、皆を呼んだ。
時雨たちは食堂へ入って行った。