ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 吸血鬼と暁月【第二次オリキャラ募集中!】【参照400突破】 ( No.67 )
- 日時: 2012/08/26 11:19
- 名前: 枝垂桜 (ID: xPtJmUl6)
リビングとは違い、沙雨の部屋は酷く暗かった。
吸血鬼は日光に触れると砂となって消える、人間の間では言われているがでたらめに過ぎない。ただ基本的に夜行性な者たちが多いだけだ。
太陽の光こそ平気である沙雨だったが、日光自体好ましくないので、沙雨の部屋はいつでも暗闇に包まれている。
朱音をベットの上に乗せると、部屋の中にあるランタンすべてに息を吹きかる。ろうの先端に火が灯り、部屋が明るくなった。
突然、またしても沙雨の喉に酷い渇きの感覚がはしる。
「……っ」
首に手を添え、顔をしかめる。先程の渇きより酷い。
これは吸血鬼の本能。血への飢えが表れ、同時に血への欲が生まれた証拠だ。
血への欲を、頭がおかしくなってしまうくらいの時間我慢してきた。
しかしあの日、朱音の血を吸ってしまってから、歯止めが利かなくなっているのかもしれない。
情けない。朱音を傷つける事だけは、絶対したくないのに。
朱音に頼めば、朱音は許してくれるのだろうか。それとも、自分を酷く拒絶するのだろうか。
沙雨は横に首を振り、今の考えを払った。
今すべきなのは、朱音の消毒だ。
燭台を六本取り出し、六芒星の形になるように朱音の周りに置いた。
これは陰陽道という、陰陽師が使う術であるのだが、沙雨はそれを完璧に習得していた。
「───〝発〟」
心を静めて、閉じていた目を軽く開くと同時に呪文を唱えた。
六本の燭台に青い炎が宿り、同時に燭台同士を青い線が結び、見事な六芒星を描きだした。
「〝発〟 〝雲散霧消〟」
更に呪文を唱えると、床に描かれた魔法陣がまばゆい光を放ち、朱音を包み込んだ。
しばらくすると魔法陣は綺麗に消え、燭台に灯っていた青い炎も消えていた。
そしてベットに横たわる朱音の紫色は、元の白くて綺麗な朱音の肌の色に戻っていた。
先ほどとは打って変わって、安らかな呼吸をする朱音を見て沙雨は安堵した。
そしてまた、喉に渇きがはしる。今度のものは今までにないくらい強烈な物で、心臓が大きく跳ね上がった。
喉と胸を押さえて朱音から足早に離れる。本棚にぶつかって、本が雪崩のように落ちてきた。沙雨の体を打撃して、沙雨はそこで膝をつく。
心臓の拍数が増す。喉の渇きが続く。頭痛が襲う。
意識が飛びそうだ。しかし今意識を手放してしまえば、自分はきっと朱音の血を吸ってしまう。駄目だ。彼女の許可なく、吸ってはならない。彼女を傷つけてはならない。
渇く。喉が渇く。喉が、喉が──……、
「───ッッ! は……ッ…」
追い打ちをかけて、喉の渇きが増す。限界が近いのか。朱音の血を吸う前は、あれほどの時を我慢できたのに。
「主」
すぐ横にある扉が開いて、マーチが姿を現した。
「マーチ……?」
「珍しい事もあるのですね。主が余裕をなくすなんて。そんなに朱音さんは重体なのですか?」
そう言ってからマーチがふと気付く。いつもは綺麗な青に染められている沙雨の瞳が、今は血の色になっている。
そして余裕のなさの原因に辿り着いた。
「血への〝飢え〟、ですか」
「……っ」
きつく睨みつけてくる沙雨。しかし今は全く怖くない。
「朱音さんを傷つけたくないのですね。しかしきっと朱音さんは貴方を受け入れてくれますよ。ご安心を」
にっこり笑いながらそう言う。そして、その綺麗な手を沙雨に差し出した。
マーチの意図に気付いた沙雨は力なく首を振る。
「……いらない」
「今飲んでおくのが身の為です。私がここに来なかったら、きっと貴方は朱音さんの血を吸ってしまっていた。……ご自分でも分かるでしょう?」
沙雨は返す言葉がなかった。その通りだったからだ。
「いらない。もう少し耐えられる」
「嘘を言わないで下さい」
しかし沙雨は強情な事に、マーチから目をそらした。
ふう、と一息吐いたマーチは、どこからか短剣を取り出し、手首の飢えを切った。
鈍い痛みが走るが、マーチにとってはどうってことない。
赤井鮮血が流れ出す。
「………」
床に血が落ちる。しばらく沙雨は微動だしなかった。しかし──……、
「………ごめん。マーチ」
一言謝ると、その手を自分の口に引き寄せて、流れ出る血を吸い始めた。
「───主、我慢もほどほどにしませんと、本当に壊れてしまいますよ?」
マーチに微笑みながら、妖しく告げた。