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Re: 吸血鬼と暁月【オリキャラ募集は終了致しました】 ( No.72 )
日時: 2012/09/05 18:26
名前: 枝垂桜 (ID: tDpHMXZT)



第10章 魔導書 霧亜 ロア


 朱音が帰ってきて三日が立った。朱音も徐々に本調子を取り戻していき、今では時雨と一緒に町へ買い物に行くこともできるようになった。


 しかしまだあの時の恐怖は拭いきれない様子で、以前より他人を警戒しているようだ。


「あーかーねっ! ぼーっとしてると、転んじゃうよ?」


「大丈夫だよ。時雨じゃないんだし」


「酷くない?」


 むーっ、と頬をふくらます時雨。その姿が微笑ましくて、つい笑ってしまった。


 「しまった」と思い口に手を添えた頃にはもう遅かった。さきほどの倍以上に膨れ上がっている時雨が目の前にいる。



「あーかーねーッ!」


「ごめんごめん。嘘だよ」


「おーい、朱音ー時雨—、早く来んと置いて行くぞー」


「あ、待ってー! 行こう朱音」



 結構遠くに居る寧々と桔梗を追いかけようと、時雨が朱音の手を引っ張って走る。


 時雨は意外に体力があるので、運動に慣れていない朱音には時雨について行くので精一杯だ。

 それに人通りがなく常にがらんとした神社に住んでいたせいか、すぐに人酔いしてしまう。これでも最近は良くなって来ていた。


「ここは日本と全然違うんだね」

「そうだね。昔とはかなり変わったけど、日本と違うのは相変わらず」

「これは着物?」

「これは洋服。ドレスというものじゃな。男が来ている物は燕尾服という装束じゃ」

「そうなんですか」


 不思議な服だな、と思う。着物とは全く違う模様でお洒落だ。それにやたらとフリフリしている。


「なんじゃ? 朱音、洋服が欲しいのか?」

「い、いえ。ただ不思議な物だな、と思って」

「初めて見る者は皆そう言う」


 綺麗な唇の端を上げて微笑む寧々に、同性ながら見とれてしまう。なぜこの人はこんなにも綺麗な顔をしているのだろうか。


 というか、どうして沙雨の周りにいる人は男女共に美形ばかりなのだろうか。


 そうとなると、自分が酷く浮いてそうで恥ずかしい気がする。


「……? あ、あの人……」


 時雨の視線がどこか別のところに向けられる。


 全員の視線がそちらに向かった。そこには、赤と黒のゴシックに身を包んだアネッサと、半透明な体をして、綺麗な着物を身にまとった青年がいた。


 時雨があからさまに嫌そうな顔をした。


 アネッサは確実にこちらに気付いていて、こちらに歩み寄ってきている。


 とても堂々とした歩き方だ。時々その青年と会話をしているようだ。


 朱音たちの目の前に来ると、歩みを止めた。


「初めまして。私は涙樹 アネッサ。私は未来を視る者」


「未来を?」


「なんじゃこれは。幽霊か?」


 寧々が興味津津の様子で半透明の青年に手を伸ばす。その手を桔梗が握って止めた。


『私は朱音ちゃんの神社にある6本の桜の木の精だよ。 名は花染衣。よろしくね』


 人懐こい笑みを浮かべてあいさつする。不機嫌そうな顔をしているアネッサの横では余計輝いて見えた。


「私は朱音さん。貴方を助けたい。だから時々助言を言い渡しに来るわ。今は一つ目」


 アネッサは朱音に向かって言った。


「───貴方は一つの巨大な本を手に入れるべきよ。そうすればきっと運はめぐってくる」


 それだけ言うとアネッサは人ごみの中に消えてしまった。