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Re: 吸血鬼と暁月【執事&メイド募集は終了致しました】 ( No.89 )
日時: 2012/10/07 19:38
名前: 枝垂桜 (ID: tDpHMXZT)




 彼の心はまだ生きているのだろうか。それとももう死んでいるのだろうか。

 人間離れした力を持っている彼でも元は『人間』だ。心くらいはあったのだろう。しかし長い間、邪悪な力を持つ悪魔を殺し続け、紅蓮に染まり続けてきた。はたして今、心は生き続けているのだろうか。

 否、彼には心などない方が良いのかもしれない。

 悪魔を殺すたびに心を痛めていたら、彼は死んでしまう。心を殺すのは正解なのだろう。


「では俺は久遠を探そう。見つけたら必ず仕留めて骸を晒してやる」

「───ああ。頼むよ。……じゃあ僕たちは行く」

「沙雨。隠しても無駄だ。………〝暁月〟はあるんだろう?」

「……さて、どうだか」

「隠しても無駄だぞ。もし俺が久遠を仕留めたら、〝暁月〟は俺が貰おう」


 立ち上がった沙雨の顔も見ず、淡々と告げるシエル。

 沙雨は〝暁月〟の正体を知っているのか、知らないのか、微笑した。


『暁月』

 それは闇が立ちこめる、夜深い刻限を表わす言葉。太陽は少しも顔を見せていない、黒の如く暗黒を差す言葉である。

 この言葉は何を意味するのか。


「君は『暁月』がどこにあるのかも分からないだろう?」

「ああ。だからお前が直々に出してくれ」

「なぜ僕が持っている事前提になっているのかい?」

「お前が一番怪しい」

「信頼がいないなぁ」


 この後、二人は何の会話もせずにその森を出て、幽霊界への道を開いた。








 幽霊界に入ると、何の迷いもなく王宮を歩き続けた。

 女王に会いたい、と直々に申し出ると彼等は安易にそこを通した。それは彼らが沙雨を駒にしたいからであり、女王に会わせたいからである。



「女王様、沙雨殿とお付きの者がいらっしゃいました」

「構いません。……通しなさい」


 ぎぎ、と分厚い扉が開き、その奥には女王が王の座に腰を掛けていた。


 その強い眼差しで、沙雨を見つめたのだった。