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Re: 吸血鬼と暁月 ( No.96 )
日時: 2012/10/20 20:01
名前: 枝垂桜 (ID: tVX4r/4g)




第十二話 そして女神は誰に微笑む




 目を開けると、そこは真っ暗だった。高い所に一つだけ窓があり、そこから淡い月の光が差し込んでいる。


 その狭い空間は静寂に包まれていて、物音一つしない。


 朱音は重い体を起こし、顔をしかめた。


 手足が鎖で壁に固定され、自由を奪っていた。



───ここはどこ?



 意識が覚醒して来て一番最初に思った。全く見覚えがない。きっとあの化け物に連れて来られたのだろう。


 『化け物』とは李園をさす言葉だ。朱音の記憶はリオンが現れた所からぷっつりと途切れている。どんなに考えても、それ以上は思い出せない。



「起きた?」



 びくっとして声がした方に視線を向けるとそこには久遠がいた。

 黒のゴシックを身に纏い、漆黒の瞳で朱音を見下ろしている。


「半兵衛殿……?」

「違う。俺は水袮久遠」

「久遠……」


 そうだった。今の彼には以前の記憶がない。沙雨が薔薇夜会の後で話してくれていた。


 久遠とその仲間の皐月という女を殺すために、沙雨たちは動いているのだ。

 もしかすると思い出してくれるかもしれない。


「違います! 貴方は半兵衛殿です! 半兵衛殿、私です! 朱音です!」


「………知らない。俺とお前は初めて会う」


「……ッ」



 やはりだめなのか。それほどあの皐月という女の呪縛は強いのだろうか。








「久遠、ありがと。もう休んでいいわよ」



 扉が開いて、一人の女が入って来た。


 久遠は頷くと彼女と入れ替えに部屋を出て行った。



「貴方は?」

「私は皐月」

「貴方が……」

「貴方の事も知ってるわよ。吸血鬼の朱音」



 皐月は不敵に微笑む。

 黒いドレスを来て、顔には同色のレースを垂らしている。顔こそ分からないものの、次会った時は雰囲気で察する事が出来るだろう。

 同じ悪魔でも寧々や桔梗とは雰囲気が掛け離れて違かった。


「沙雨はどこですか?」

「別の部屋に居るわ。だけど貴方とはもう会えないかも」

「どういう、ことですか……?」



 レースの向こうで皐月が笑った。


「『暁月』は貴方を欲しがってる。だけどまだ『暁月』と会うのは早いわ。だから、もう少しだけ、ここに居て頂戴」


 皐月はそれだけ言い残すと、部屋から出て行ってしまった。



────────────────────────────────────




「久遠様、皐月様」


「何かしら?」


 部屋を出てきたところを見計らって女王───否、元女王のアレクシアが声を掛けた。


「例の物はいつもらえるのですか?」


「例のもの……? ああ、『暁月』の事? ───あげれるわけないじゃない」


「え……?」


「暁月を少しでも減らしてしまったら彼女は復活できない。すべては『最初から』嘘だったの。お前は騙されていたのよ」


「そんな……ッ! この……ッッ!!」


 アレクシアが腰から短剣を取り出した。鞘を捨て、皐月に向かって振りかざした。


───その時だった。




「────────ッッッッッッッ」



 久遠が後ろからアレクシアを剣で刺した。


 心臓を貫いたその剣をグリッ、と一回転させ抜く。


 支えがなくなった彼女の体は短剣を取りおとし、呆気なく崩れ落ちた。その瞳は、屍でありながらもしっかりと皐月を見ていた。

 『復讐してやる』。そんな目だった。しかし霊体さえも失った彼女は記憶を亡くし、生まれ変わる。


 いや、幽霊界でこれほどの大罪を犯したのだから、地獄行きだろう。



「ありがと、沙雨」


 久遠は一つ頷いた。


「ポイル、これを捨てておいて」


「オッケー」


「待ってぇ。捨てるなんて勿体無いー。僕が食べるぅ」


 李園はポイルからアレクシアの屍を引きはがすと、一気にかぶり付いた。



「良い駒だったわね。あとは『暁月』よ」



 皐月は微笑んで見せた。

















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