ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: ジェットブラック ( No.10 )
- 日時: 2012/01/25 19:42
- 名前: K-10 ◆f62.Id/eYg (ID: r6yRxP5o)
- 参照: トリップつけました
第四章
日は少し傾き、西日が窓から差し込む。
まだ夕方と呼ぶには早いが、昼と言うほどの時間でもない。
「…………」
エメラルドの瞳がガラス越しに映る風景をぼんやりと眺めていた。
短いアッシュブロンドの髪が日に照らされ輝いている。
「あなたはこの景色を見るのが好き?」
マチルダがティーカップを持ってきた。
「…あんまり、好きじゃないかな」
「その割には熱心に眺めてるのね」
マチルダは持ってきたティーカップを差し出して言った。
入っているのは紅茶に見えるが、茶葉のと共にほのかに砂糖とは違う甘い香りがしていた。
「ありがとう」
子供はティーカップを啜った途端に顔をほころばせた。
「甘い」
「ふふっ。実はね隠し味にハチミツ入れたの」
微笑みながら歩み寄る。マチルダも子供の隣に立って、
景色を眺めることにした。
「ギルも言っていたわ。この国は好かないって」
子供はマチルダの横顔に向き直った。
「理由、何だと思う?」
「…あの格好が変だと思われるから?」
「それもそうね」
マチルダがクスクスと笑い、子供の瞳を見つめた。
「全てが作り物みたいだからですって」
「え…?」
「嫌なことを、思い出すんですって」
マチルダは苦笑して言った。すると、子供は俯きながら呟いた。
「ボクも同じかな」
それと同時にドアが開く音がした。
「帰ってきたわ」
黒いコートの裾を揺らしながらギルバートが帰ってきた。
左手には茶色い紙袋を持っている。
「おかえり」
「ったく。何なんだよ、ここの国民は揃いも揃って」
悪態を付きながら、ズカズカとデスクに歩み寄り、
コートを椅子に掛けた。
「何があったの?」
マチルダが目を丸くして訊いた。
ギルバートはソファーにドッカリと腰掛けて眉間を摘みながら答えた。
「変人扱いされるわ、押し売りに合うわ」
そう。ギルバートはあの洋服店で買い物をした後
がめつい商店から様々な物を買わされそうになったのだ。
「それは大変だったわね」
マチルダが苦笑した。
「そんな事より、おい…えっと…」
窓で佇んでいる子供を呼んだが名前が出てこない。
いや、忘れているわけではない。まだ聞いてないのだ。
「アレックス」
ティーカップをソファーの前のテーブルに置いて
アレックスは静かな声で名乗った。
「…そうか。そんじゃ、アレックス。まずお前に大切な話がある」
ギルバートはクロイから聞いてきた話をしようと口を開いた。
「博士、心配してた?」
その顔は表情が分からないほど深く俯いている。
「…あぁ。していたさ」
ギルバートはできるだけ優しく言ったつもりだった。
しかし、顔を上げたアレックスは唇を噛み、
今にも泣き出しそうな顔をしている。
「お、おい…」
「本当は…本当は分かってるんだ。早く帰ってあげなきゃいけないのはっ」
華奢な膝がまるで糸が切れたマリオネットのように落ち、
その場にへたり込んで泣き出した。
それを見てギルバートはアレックスのもとに跪いた。
「…もう、分かってんだよな?お前が死んでもどうにもならないことは」
しゃくり声と嗚咽が反響する。それに戸惑いながらもギルバートは声を掛けた。
「分かってるよ、分かって…ひっく」
マチルダも歩み寄ってきた。
「…帰ろう。クロイさんのところに」
アレックスは顔を上げて小さく頷いた。
「だぁああっ!もう泣くなよ!」
ギルバートが戸惑いを抑えきれず、
思わずアレックスにデコピンをした。
バチンという強い音をさせてアレックスがのけぞる。
マチルダは驚いた様子で小さく声を上げて口を抑えた。
「痛っ!何するん…」
「なんつー顔してんだ。その格好じゃアイツに余計心配かけるぜ」