ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: ジェットブラック ( No.13 )
- 日時: 2012/01/31 19:41
- 名前: K-10 ◆f62.Id/eYg (ID: r6yRxP5o)
- 参照: トリップつけました
さっきとは違う意味で涙目になりながら
額を抑えるアレックスにギルバートは紙袋を渡した。
中には白いインナーと赤いパーカー、カーキ色のカーゴパンツ、
そして同じくカーキ色のキャスケット帽が入っている。
「どういう事…?」
イマイチ意味が分からない、と首を傾げるアレックス。
ギルバートと目があったが、すぐにそっぽを向かれてしまった。
マチルダそんな二人の様子を見て声を殺して笑っている。
「何笑ってんだ?」
声のトーンを落としつもりだがマチルダはまだ笑っていた。
「だって…っあはははっ!」
ますます分からないと言った表情のアレックスにマチルダは言った。
「そのぼろ切れじゃ、酷い仕打ちをされたって言ってるようなものだってギルは言いたいのよ」
そして、アレックスにだけ聞こえるように耳元で囁いた。
「ぶっきらぼうだけど照れているのよ、彼」
「…そう、なの?」
怒っているわけではないことに胸をなで下ろし、
アレックスは立ち上がった。
「着替えてくる。脱衣場は?」
「…?廊下を行って曲がったところだが」
ギルバートは一瞬耳を疑ったが、気にせず教えた。
「ありがとう」
涙の痕を残した頬が笑みに色付き、脱衣場に向かっていった。
脱衣場の扉が閉められる。
「あいつ…そんなにマチルダの目が気になるのか?」
ソファーに腰掛け直すギルバートに
マチルダは呆れた、と溜め息をつく。
「一応言っておくけど、気になるのはあたしじゃなくてあなたよ。ギル」
「…は?」
?マークが頭の上に浮かぶのが目に見えるような表情。
「鈍いわね。アレックスは“魔女の魂を持っている”のよ」
「…ってことは」
「そういうこと」
マチルダが大きく頷くと、ギルバートの表情が
みるみる引きつっていった。
「どうしたの…?」
「服のサイズ…」
「まさか!」
脱衣場の扉が開き、アレックスが出てきた。
二人は恐る恐る振り向く。
「どうしたの?そんな顔して」
目の前に立っているアレックスは
パーカーの袖が少し長いこと以外は何の変哲もなかった。
「あぁ、よかった。ピッタリみたいね。袖が長いけど」
「あ、あぁ。そうだな」
慌てて取り繕ったので不自然に見えたが、
アレックスは気にしなかった。
「この服、袖以外はボクに大体合ってるんだけど…選んで来てくれたんだよね?」
自分の肩や腕、とにかく首の回るところまで見渡してから
ギルバートを見た。
「俺が選んだわけじゃない。店員が勝手に…」
これは照れているわけではなく実際にそうだった。
「そうね。ギルが選んだら、目と髪の色を意識したコーディネートなんてできないどころか、センスが問われるようなことになりかねないわ」
「うっせぇっ」
軽くマチルダを睨みつけた。
「とにかく、ありがとうお兄さん」
知らぬ間に微笑みをこぼしたアレックス。
涙の痕は当に消え去っていた。
ギルバートは“お兄さん”と呼ばれてやっと思い出した。
「そう言えば、名前を訊いておきながら名乗っていなかったな」
「そうね」
ギルバートは手を差し伸べて言った。
「ギルバートだ。ギルでいい」
「マチルダよ」
アレックスは差し伸べられた手を握り、少し寂しげに言った。
「二人とも異国の人でしょ?」
「…そうだが?」
「じゃあ、もう会えないかもね…何時までいるの?」
「明日の今頃にはもういないわね。寂しくなるわ」
マチルダが肩をすくめて言った。
「でも、良かったじゃねぇか。早くに帰る決心がついて。お前が後悔するところだったぜ」
「うん!じゃあ、ボク帰るね」
「ちょっと待て」
玄関に向かおうとしたアレックスを呼び止めた。
「送ってく。報酬のこともあるからな」
「もう、素直じゃないんだから。あたしもついて行くわね」
時はすでに夕刻。窓ガラスに映る空はワインレッドに色づいていた。