ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: ジェットブラック ( No.23 )
- 日時: 2012/02/18 19:04
- 名前: K-10 ◆f62.Id/eYg (ID: r6yRxP5o)
いや、正確には二丁拳銃——マチルダが素手で顔色一つ変えず、
豪火を纏ったトンファーを受け止めていたのだ。
「生憎俺もマゾじゃないんでな」
マチルダが押さえている反対側で
ギルバートが腕を組んで結界に寄りかかっていた。
ギリギリのところで交わしたらしく、コートの肩先が少し焦げていた。
「二対一とは卑怯だな。それに、よくも邪魔してくれたね」
ただならぬ形相にアレックスは震え上がる。
結界がまるでまったく機能してないかのように、
その視線はアレックスの心臓を射た。
体が冷たくなっていくような感覚が駆け巡る。
「二対一?こっちは一人と一つだ」
人のこと言えたタチじゃない、と馬鹿にしたように笑った。
「黙れ!殺し合いは一対一だ。人だろうがモノだろうが邪魔するな!」
それを聞き、マチルダも笑い出す。
その笑顔は普段見せるものとは違う、嘲笑うような表情だった。
「聞いた?殺し合いですって」
「あぁ。とんだ勘違いだな」
それはさらに赤毛を怒らせる結果になった。
「何が可笑しいんだよ?…まぁ、いいさ。邪魔されて腹が立ってるし、丁度その子の命を奪うことが任務だ………?」
マチルダから逃れようと腕に力を込めるが、動けない。鉄のように堅く感じる。
いや、マチルダに完全に動きを封じるほどの力はない。
「殺し合いなんかするこたねぇよ」
結界から糸のような物が無数に伸び、赤毛の腕に絡みついていた。
「まさかここまで冷静さを失ってくれるなんてな」
アイスブルーの瞳が虚ろになり、
赤毛の怒りの表情とは別の意味の恐ろしさをはらんでいた。
それでも赤毛は狂犬のごとく殺してやる、と吠えている。
「あらあら。任務を忘れてギルを殺そうとするなんて、すっかり本題を忘れてるみたいね。」
「まあ、好都合だが」
アイスブルーの目にはもはや何の感情も映っていない。
あるとすれば虚無以外の何物でもなかった。
「守護の壁面よ。隔絶を絶ち、招かれざる客に招待状を」
ギルバートが唱えた途端結界が歪み、赤毛の体が沈んでいく。
マチルダが押し込むのに抵抗するもなけなしだった。
「…やめっ」
赤毛は倒れるように結界に沈んだが手を伸ばし、
届かないものの外に出ようとした。
「密航者の客間よ。氷雪より冷たく、刃より鋭利に、鋼より堅い抑制の箱庭と化せ」
しかしギルバートは容赦せず、内側から結界が破れないようにした。
「っ出せ!出せよ!」
赤毛はようやく立ち上がり、結界を叩くがもう遅かった。
止めをさそうとマチルダを銃に戻し、結界に銃口を押し当てる。
「出れないだろ?でもな、外から入れることは出来るんだぜ?このまま撃てば跳ね返って一人でドッジボールだ」
「止めて、もう止めて!」
アレックスはギルバートの冷たい目を見て、
惨い事をするのではないかと思ってしまった。
ひんやりとした雰囲気に鼓動が速まる。
「殺しはしない。聞き出すことがあるからな」
怯えているアレックスを安心させるように笑って見せた。
まるでさっきまでの冷たい目が別人のように。
「さて。質問に答えてもらおう。クロイ博士はどこだ?」
銃口を押し当てたまま問いかけるが、赤毛は口を開かない。
「次の質問だ。なぜこいつを狙う?」
しばらくの沈黙の後、その口は開かれた。
「任務だからさ。雇われの身でね。詳しいことは分からない」
自分に勝機は無いと悟ったようだ。少しばかり遅いような気もするが。
「誰に雇われた?」
「…それは最初の質問とほとんど同じだな」
ギルバートは結界の膜にもたれかかった。