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Re: ジェットブラック ( No.24 )
日時: 2012/02/18 19:23
名前: K-10 ◆f62.Id/eYg (ID: r6yRxP5o)

「これに答えりゃ、出してやらないこともないもない」
「…この国の外の荒野を山の見える方向に歩けば雇い主が住まう屋敷にたどり着く」
それを聞くとギルバートはアレックスの前に立った。
「外に出ろ」
「え、でも…」
「魔法陣を持ってるだろ。出入りは自由だ」
恐る恐る膜に手を触れると水面のように波紋が立った。
そのまま手を突き抜け、肩、足、頭をくぐらせて結界の外に出る。
アレックスがが帽子を拾い上げ、被り直す。ギルバートがホルスターに拳銃を収めると二人は離れた場所まで歩いた。
「おい!話が違うじゃないか」
アレックスはギルバートに押されている形で
ちらちらと後ろを見ながら歩いている。
「ねぇ。あの人出さないの?」
「出すさ。少し変わった方法でな」
100メートルは離れた場所まで来ると
ギルバートはアレックスの魔法陣をよこすように言った。
「何をするの…?」
コートの裏ポケットから自分の魔法陣を取り出した。
ニッと口元を笑わせると、
「追いかけて来んなよ。そんじゃ、バイビアス!」
魔法陣の書かれた紙切れを二枚一緒に破いたと同時に
二つの結界が爆発した。小規模だが威力はある。
並の人間なら跡形もなく吹き飛んでいるだろう。
爆煙が晴れると、そこには血の海の中に沈む体があった。
アレックスは短く息を吸い両手で口を押さえている。
よっぽどショックを受けたのか顔は青ざめ、放心していた。
「…ックス、アレックス!」
肩を揺すられてやっと放心が解ける。
アレックスはギルバートの目を確かめるように見つめる。
さっきのような虚ろな目…ではない。
元の、冷たい印象を受けるだけの目。
「…どうしたんだ?」
ギルバートが首を傾げるとその向こう側にある血の色が目に飛び込んでいた。
再び衝撃に襲われそうになるのを抑え、ギルバートを見据える。
「ちょっと、やりすぎなんじゃない?」
声が震える。自分を守るために、クロイを助けるために闘ってくれていたギルバートがどうしようもなく恐ろしい存在に思えてしまったのだ。
「死んじゃいない。足止め食わしただけさ。まぁ、5時間もあれば元通りと言ったとこだな」
声のトーンが明るい。
素なのかアレックスを安心させるためなのか分からないが、
逆にアレックスの怯えが強まってしまった。
「でも、あそこまでやること…」
「あのな…」
ギルバートが呆れ半分、冷たさ半分で呟いた。
反射的に体がびくっと跳ねる。
「焔魔には一人でひとつの国を焼き払うほどの力がある。それにな、あいつは雇われたと言っていた」
「雇われてるだけで詳しいことは分からないって、博士を連れ去った連中とは関係無いでしょ?」
アレックスが必死に訴えるが、ギルバートは俯き、
分かってないとでも言いたげに首を振った。
「雇われたってことは、利益があるから働くってことだ。つまりお前が生きてる限り雇い主が何をしようとしていても関係ない。利益だけ求めて追ってくるってワケだ。わかったらボサッとしてないで行くぞ」
依頼があれば働く。ギルバートにとって当たり前のことだった。
夕日は沈み、空が濃紺に染まる。
光と呼べそうなものは今は一番星の明かりのみ。じきに月が昇り、冷たい光が荒野を照らすだろう。
「ボクはやっぱり…」
アレックスは何かを言いかけたが口を閉じた。
「余計なこと考えるな。何もお前のせいじゃない。これは…」
ギルバートが歩み出す。
その後ろ姿闇より深く溶けきれない漆黒のようだった。
「これは、正当防衛だ。誰も傷ついちゃいない」