ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: ジェットブラック ( No.3 )
日時: 2012/01/08 18:03
名前: K-10 (ID: r6yRxP5o)

手にはモップが握られており、
足元には水が入ったバケツが置かれている。
床は綺麗になっており、埃もさほど舞っていなかった。
「まだ、廊下の掃除が済んでなかったのに…」
女は依頼人の汚れた足を見ながら申し訳なさそうに呟いた。
「あぁ、いいんですよ」
依頼人は笑顔で応えた。ギルバートは女を見て
驚くどころか、やれやれと言いたげにため息をついた。
「おい、何時からそこにいたんだ?マチルダ」
「さっきからだけど…あ、取りあえずそこに掛けて下さい。お茶、煎れますね」
マチルダと呼ばれた女は腰までつく金髪を揺らしながら、
キッチンに向かった。
ギルバートは依頼人にソファーを勧めた。
ギシリという音を立てながら依頼人の腰が沈む。
「で、あんた名前は?」
「私はクロイと言うものだ」
小さなテーブルの向こう側の椅子…
というより小さな箱にギルバートが座っている。
「用件は何だ?」
「攫われた子供を助けてほしいんだ」
依頼人——クロイが俯きながら話した。
「…そう言うことは警察に言ったらどうだ?」
こういう仕事は受け付けない、と言いかけたときだった。
「一応魔族関係のことなんだ。頼むよ、最後まで聞いてくれ」
「へぇ。話してみろよ」
魔族という言葉に口元をニヤリと笑わせたギルバート。
魔族。それはこの世界で人間と共存している生き物。いや、共存していると言うよりもともとこの世界は魔族が作り出した物と言われている。
「攫われた子供っていうのはこの子なんだが」
クロイが胸ポケットから小さな写真を取り出した。短いアッシュブロンドの髪にエメラルドグリーンの瞳を持つ10代半ばくらいの子供。
少年か少女か見分けが付かないくらい中性的だった。
「この子は造られた魂を持っているんだ」
「造られた魂?」
「私は魔族に関する研究をしているんだが…」
マチルダがキッチンから紅茶の入ったティーカップを持って戻ってきた。
「どうぞ」
コトリと音を立ててクロイの前に置かれた。
それは程よく湯気が立っていた。
「その途中で魂を造ることに興味を持ってね。何もないところから魂を造り出すのは無理だったが人間の魂と魔族の魂を合成させることで魂を造り出せたんだ」
クロイは出された紅茶を啜る。
「それで、なんでその子が攫われたんだ?」
「この子を造るときに使ったのは世界の創生に関わった魔女の魂。恐らく魔女の魂を悪用しようとする者がこの子からもう半分を取りだそうとしているんだろう」
クロイは神妙な顔付きになって話していたが、
ギルバートは口を笑わせたままだった。
「悪用ねぇ」
「もちろん魔女はすでに魂だけの存在だが、完全な魂をそいつらが手に入れたら…」
「場合によっては世界が創り直されて全てが無かったことになる、でしょ?」
それまで黙って聞いていたマチルダが口を挟んだ。
コクリと頷き、メガネを指で押し上げた。
「オーライ。その依頼受けたぜ」
「やつらはもう国の外にいるかもしれないが、あの荒野ならそう早くは抜け出せないだろう」
「“悪魔の巣窟”だったな」
ギルバートとマチルダがこの国に辿り着くまでに通ってきた道。
文字通り悪魔が棲み付く荒野だった。
「しかし、君達もかなり危険だ。命の保証は…」
語尾になるにつれてクロイの声は掠れ、そして激しく咳込んだ。
「おい、あんた…」
「大丈夫ですか?」
「ゲホッゲホッ…いやぁ、最近風邪を引いてしまってね」
しばらくしてクロイの咳が治まり話を続けようと口を開いた時。
マチルダがそれを遮った。
「命の保証が無いのはいつものことですから。ね、ギル」
笑顔でギルバートを見やるマチルダ。
「お前はまるで他人事だな…でもまぁ、俺達は一度あそこを通っている。それに」
「…それに?」
「俺をただの銃士だと思ってるのか?…マチルダ」
マチルダは無言で頷き、目を閉じた。すると彼女の体が青い光の粒子に包まれ、やがて彼女の指先が粒子になった。そこからどんどん体を粒子に変えて形を崩していく。
そして、ギルバートは両手の親指と人差し指を立てて何やら構える姿勢をとる。そこに粒子となったマチルダがモノの形を形成し始めた。
「こう見えて魔銃士なんだぜ」
ギルバートの手には
白銀の二丁拳銃が握られていた。