ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: ジェットブラック ( No.4 )
- 日時: 2012/01/08 20:38
- 名前: K-10 (ID: r6yRxP5o)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel2/index.cgi?mode
第二章
「ったく、酷ぇな。コートが濡れちまったぜ」
通り雨に悪態をつくギルバート。
体を弾ませ、子供を担ぎ直すとスタスタと歩き出した。
と、その時。バリバリと何かを噛み砕くような音が背後から聞こえた。後ろを向けば等身を長くした兎のような姿の魔物が二体。兎にあるはずのない鋭い牙を剥き出しにして転がっている抜け殻を喰らっていた。
肉も骨も区別せずその牙が引きちぎり、鈍い音を立てる。
飛沫が跳ね、白い体を赤く染めていった。
「血の匂いに引かれたか」
ギルバートが呟くとそれは赤い目をこちらに向けた。
次の瞬間、一体がギルバートの頭上に浮いていた。
いや、正確には“跳び”かかってきたと言うのだろうか。
寸での所でかわし、右のホルスターから拳銃を取り出た。
着地した魔物に一発を食らわす。魔物はうめき声を上げたが
対したダメージにはなってなかったようだ。
「魔女ノ魂…ソイツノ魂喰ワセロぉぉおおお゛!」
魔物たちが雄叫びを上げると兎の面持ちが崩れ始め、
口が顎の端まで広がった。
耳こそ残しているものの可愛らしい兎とは程遠い、
醜い化け物となった。
「こりゃ、危ねぇな」
担いでいる子供を下ろすと魔法陣が書かれた紙を懐から取り出し、
子供の横にひらりと捨て置いた。するとその一帯が結界に覆われる。
「丁度いい。憂さ晴らしにー」
左のホルスターからもう一丁を取り出すと、
手を交差させ銃口が上と下になるように構えた。
緩やかな風が水気を含んだコートを揺らす。
ギルバートがアイスブルーの瞳を細める。
そして風が止まった瞬間。
「付き合ってもらおうか!」
二丁拳銃のトリガーが凄まじい速度で引かれた。
弾が螺旋を描いて魔物たちの皮膚に突き刺さる。
しかし、魔物たちはそれに構うことなく
ギルバートに向かって突進して来た。
「そうかよ」
銃撃を止めたと同時に
一体がギルバートの頭上高く跳び上がり、
前と上から挟み撃ちされる形となった。
「行くぜ。マチルダ!」
挟み撃ちされているにも関わらず、銃を二丁とも放り投げた。
それは回転しながら魔物の長い耳を掠め、さらに上へと上がった。
一方のギルバートは前から迫り来る牙に重い蹴りを食わす。
強い衝撃に魔物が吹き飛ばされ、
数十メートル先の大きな岩にぶち当たった。
その後前へ跳躍すると、さっきまで立っていた場所に
大きな音を立ててもう一体の魔物が降ってきた。
それとともに戻ってきた二丁拳銃は女の姿をかたどり、
魔物を踏みつけている。
「あーあ。ワンピースが汚れちゃったわ」
砂煙の中、マチルダがごく普通に呟きながら
魔物の頭を目にも留まらぬスピードで踏みつけた。
魔物の絶叫が断末魔となり響き渡る。
しかし、それもすぐに聞こえなくなった。
「お前、相変わらず怖ぇな」
ギルバートがげんなりした顔でマチルダを見つめる。
「あなたこそずいぶん怖いことしてくれたじゃない。いきなり投げるなんて!第一あたしは二丁拳銃なんだから片方で上、片方で前を撃てば良かったのに」
「言ったろ。憂さ晴らしだって。派手にやんなきゃスッキリしねーよ」
黒い髪をボサボサと掻きながらギルバートは気だるそうに言った。
「あたし、あなたのそういうカタルシスに酔うとこ嫌いだわ。それに、完全に止めさしたわけじゃ無さそうよ」
マチルダが先ほど吹き飛ばされた魔物を指差す。
魔物は息を荒くしながらゆらゆらと立ち上がった。
「戻ってくれ」
マチルダが二丁拳銃に姿を変え、ギルバートのホルスターに収まる。
「喰ッデヤル…絶対ニ魔女ノ魂喰ッデヤル゛!」
再び牙がギルバートに迫り来る。
しかし、ギルバートはそこから微動だにせず左のホルスターから拳銃を取り出しながら呟いた。
「悪ぃな。あいつはテメェの飯じゃねぇ。俺の報酬との引換券だ」
魔物の口が大きく開かれたと同時に照準を定める。
「バイビアス!」
トリガーが引かれ、魔物の額に新たな口が空いた。
本物の口を開けたまま魔物の体は砂に沈んで行った。
※バイビアス…「バイビー」+「アディオス」の造語