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Re: ジェットブラック ( No.9 )
日時: 2012/01/31 19:23
名前: K-10 ◆f62.Id/eYg (ID: r6yRxP5o)
参照: トリップつけました

ギルバートは背を向けてハシゴに手を掛けたとき、
クロイがその背中に言った。
「あぁ、それと報酬のことだが…」
掛けようとした足を戻し、ギルバートは振り向いた。
「それはこの一件が完全に片づいたら決める。あんたが死んでいたらそん時はそん時だ」
ギルバートは向き直ってハシゴを上って行った。
「…ありがとう」
ギルバートの耳に届くか届かないかくらいのかすかな声。
ギルバートは振り返らずハシゴを登り切り、クロイの家を後にした。


もと来た道を辿り、ギルバートにとっては鬱陶しい通りを過ぎなければならない。再び喧騒に身を紛れさせる。
やはり、黒いコートは街の色に染まることは無かった。
「さぁ!寄ってらっしゃい、見てらっしゃい!今日は安く売るよ」
ぼーっとして歩いていると元気な女性の声が聞こえてきた。
ギルバートが声のする方に振り向くと、ギルバートとは違った意味で
目立つ、おしゃれな女性が店頭のワゴンの前で声を張っている。
ワゴンには衣服が積み上がっていた。
立ち止まってしばらくそれを眺めていると彼女と目が合った。
目が合うや否や女性はギルバートに手招きした。
「ちょっと、そこのお兄さん!」
「!?」
ギルバートは慌てて立ち去ろうとしたが女性はその後を追いかけてきた。
「待って!」
女性はヒールをカツカツ鳴らしている。
足音が多い割には大股五歩くらいの差があった。
「お兄さん、異国の人でしょ」
女性は息切れ切れに必死で話しかけるがギルバートは相手にもしない。
「その格好、この国じゃ目立つからうちで買ってったら?安くするよ?」
「悪いが、職業柄この国の奴らみたいな格好してると危ないんでね」
さすがにしつこくなってきたので断ることにしたが、
彼女は退かなかった。
「じゃあ、お土産!家族とか友達とか恋人とかいるでしょ?この国の服は質がいいって有名なのよ」
「………」
ギルバートはその言葉で何かを思い出したような顔をした。
すると女性に向き直り、こう言った。
「それじゃあ、このくらいのガキの服ってのはあるか?」
「…お兄さん、子持ち?ずいぶん大きな子供ね…」
女性は決して冗談のつもりで聞いたわけでは無く、本当に驚いていた。