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- Re: 紅い血飛沫と狂った少女達【プロローグ更新!】 ( No.10 )
- 日時: 2012/01/29 20:41
- 名前: 萌恵 ◆jAeEDo44vU (ID: amGdOjWy)
第一章 僕の世界は異常無し【第二部】
僕と琴乃の家は、実は、家の入り口である玄関や前庭等がきっちりと鏡の様に向かい合っている。比較的車通りの少ない道路を挟んで。つまり、僕たちは大の親友で、それぞれの向かいの家に住んでいて、笹野原小学校六年二組のクラスメイトなのだ。
だからだろうか、僕たち二人で出掛ける時。いつも、双方の家に両側をがっしりガードされた道路のどこかに、僕たちは待ち合わせるのだった。今日だって、ほら……。
琴乃が、僕の家の前で、半ば放心した様にこちらをじぃっと見つめている。
僕が前庭を小走りで通り、小さな黒い門を開けて右手を振ると、琴乃も同じく右手を振り返してきた。いつもと変わらない、優しげな微笑みを浮かべている。左腕には、赤地に白い水玉の大きなリボンで飾られた、赤ずきんちゃんが持っている様な籠バッグを引っ掛けている。
「おはよう……香奈!」
「おはよ〜、琴乃〜」
僕たちは互いに朝の挨拶を交わすと、≪Sweet time≫への道を急ぎ始めた。早めに行かないと、お店の中がどんどん混んできちゃうからね。しかも、日曜日だし。
しばらく住宅街に沿った歩道を進み、横断歩道を渡ってから、電車が来ないのを確認して急いで踏切を渡る。
ここから先は桐ケ谷市、稲野山区“笹野原”五丁目ではなく桐ケ谷市、稲野山区“竹野原”一丁目になる。簡潔に言ってしまえば、線路を境目に微妙に地名が変わるのだ。
そこから更に何分か歩き続けると、≪Sweet time≫が店を構える通りに着く。が、まだ≪Sweet time≫が開店する八時まで後十五分ほどあるので、僕たちはその辺をぶらぶらする事にした。
女の子向けの雑貨屋や、古今東西様々な書物を販売する書店等が軒を連ねる、お洒落な通りのド真ん中では、何故か白い大理石の噴水がとろとろと水を垂れている。それはまるで厚い氷が溶け、水飛沫を上げながら下に垂れ落ちているかの様で、僕はそれを静かに眺めるのが好きだった。
僕は、雑貨屋に行こうと言い張る琴乃を引っ張り、噴水のすぐ傍まで駆け寄った。
……しゃば、しゃば、しゃば、しゃばッ。
涼しげな音を立て、白い泡粒と透き通った水を混ぜ合わせながら、大理石の噴水は自らの姿を傍観者に見せつけてくる。僕はその様を、噴水の縁に浅く腰掛けて見守る。そんな僕の隣で、琴乃は不満げに雑貨屋の方を振り返ったりしていた。
僕は、海面の様にたゆたう水面に目を凝らしながら、何年か前の夏の日の事を思い出していた。
——賑やかで華やかな都市のくっきりと鮮やかな緑、青く晴れ渡った高い空、ジリジリと陽に焼かれたアスファルト道路、目が眩むほど強い日差し——。
そして、白い大理石の噴水で遊んだ、あの煌めく昼下がり。……そうだった、僕はその日、この噴水の周りではしゃぎ回って、怒られたことがあったんだった。懐かしいなぁ。
結局、僕らは≪Sweet time≫が開店するまで、大理石の噴水の縁に黙って腰掛けていた。