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Re: 甘くて紅い物語の先は【第一章更新!】 ( No.16 )
日時: 2012/02/02 20:51
名前: 萌恵 ◆jAeEDo44vU (ID: amGdOjWy)

第一章 僕の世界は異常無し【第四部】

 琴乃の家の前で別れ、堂々と道路を横断して自宅に戻った僕は、休むべき日曜日の朝なのに既にへとへとだった。
 ふらっとよろける様に前庭を通り、玄関扉の鍵穴に鍵を差し込み、中で赤いチェック柄のスニーカーを脱ぎ棄て、半ば心許無い足取りでキッチンの方へ歩いて行く。
 今日、僕は「ただいま」とは言わなかった。僕を見て「お帰り」と微笑んでくれる人が、仕事で家を空けているから。

「……」

 いつもは平気なのに急に家の中の静けさが恐ろしくなってきて、僕はキッチンの冷凍庫から一昨日買ってあったアイスキャンデーを取り出し、リビングルームでゆっくり食べる事にした。
 赤茶の革張りのソファに腰掛け、左手にアイスキャンデーを持ち替えてから右手でテレビのリモコンの電源ボタンを押す。
 プツッ——……、と妙に心地良い音が響いた後、テレビから姦しい音声が僕の耳にがちゃがちゃと流れ込む。
「——『美食大バトル・トルコ』、この後すぐ!」「見てね!」
 今は八時五十九分ぐらい。
 毎週日曜日の九時から『美食大バトル・トルコ』という人気アニメが放送されるのだが、実は、僕はこのアニメが大嫌いだった。
 しゅわしゅわのラムネ入りの、ソーダ味のアイスキャンデーをガリリと齧り、顔を歪めながら急いでチャンネルを切り替えると、一瞬置いて、テレビの画面にニュース番組のオープニング映像が映し出された。
 サンデーニュース、という聞いた事のある番組名だった。
 僕はすぐに興味を無くしてまたチャンネルを変えようとしたが、真面目そうなアナウンサーの何処か堅い声を聞いた途端、身体中の筋肉が硬直してしまった。
 黒いパンツスーツ姿のアナウンサーは、僕を残して朗々と原稿を読み上げ続ける。僕は、今度は逆に身体がどんどん弛緩していくのをただ黙って感じている。

「一月二十一日、二十時三十分頃、××県桐ケ谷市稲野山区笹野原五丁目、今はもう廃虚と化した元『サン・フォレスタ』の二〇一号室で、少女の惨殺死体が発見されました。この少女は、同日から身元が不明の森杏さん十二歳だと思われ、警察では少女の身元の確認を急いでいます」

 記憶のポケットから零れ落ち、いつの間にか忘れかけていた記憶が、ぐおぉぉぉぉ……と走馬灯の様に頭に流れ込んできた。