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Re: 甘くて紅い物語の先は【第一章更新!】 ( No.17 )
日時: 2012/02/03 17:14
名前: 萌恵 ◆jAeEDo44vU (ID: amGdOjWy)

第一章 僕の世界は異常無し【第五部】

 修学旅行やおばあちゃんの家に出掛けるときに使う、僕専用のリュックサックの中に、着替えやお菓子や歯ブラシセット等を詰め込む。
 異常に寒いこと以外、いつもと変わらなかったある冬の日。お母さんが買ってきたこのリュックサックは、表面が滑やかで、大きさも丁度良く、漆黒を基調にしており、ところどころに桃色に白い水玉柄の大小様々なリボンが散らばっている。おしゃれな女の子の、多分憧れ。
 苺のカップケーキやチョコミントアイスクリームや美味しそうなクリームを挟んだクッキー柄の数枚のタオルを折り畳みながら、僕は考える。考える。考える。
 本棚から、大きな日本地図と読み掛けの文庫本——『家出少女』を取り出し、丁寧に詰める。詰める。詰める。
 せっせと荷作りをしているうちに、僕の頭の中は何故か『逃げろ』の字でいっぱいになっていた。

 ……逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ。

 ほらぁ、ね?

 正当防衛というか過激防衛というか、僕はとにかく人をコロシテシマッタ。
 どんな馬鹿でも、幼くても。殺人犯はすぐに逃げないとイケナイ。
 息をする生きている奴の命を奪う、大きな罪を犯した愚か者はいずれはバレルのだ。
 それならいっそのこと、もう少ぅし長いジユウを。
 生まれてからずっと抱えてきた大事なものを捨てて、さあ。
 じゃあね、僕のシンユウ。

 大事な大事な荷物の入ったリュックサックと、いつか使うかと思って握り締めた家の鍵と、何十万円という、子供が持つには膨大過ぎるお金を持ち。
 理性や××とかを家の中に——地球と太陽の距離みたいに遠い場所に——忘れてしまった僕は。

 今日、たった今殺人犯として逃亡した。

第一章・完