ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 甘くて紅い物語の先は【第一章、完結です】 ( No.19 )
- 日時: 2012/02/09 20:46
- 名前: 萌恵 ◆jAeEDo44vU (ID: amGdOjWy)
第二章 安楽椅子探偵など存在しない【第一部】
恐ろしく美しい安楽椅子探偵など存在しない。それが、私の考え方だ。
よく、推理小説や一部の漫画などで、その“架空”の脆く儚い存在が登場するだろう。しかし、それは人々の作り出した夢幻に過ぎない。謎の欠片を集めに走り回ってこそ、真実は解き明かされてゆく。
何故、冒頭からこんな調子なのか。それは、私が探偵“もどき”で、人並み外れて恐ろしく美しいからだろう。まずはその白い、肌理の細かい肌。ほんのり薔薇色に染まった頬。密集した長い睫毛。垂れ目がちの大きな瞳。軽くうねった、絹の様な黒く長い髪。潤った、淡いピンクの唇。ほっそりとした身体のライン。グラマラスな胸元。
でも私は、架空の安楽椅子探偵ではない。この美しい身体をこき使い、ひょんな所に落ちていたりする謎の欠片を拾い集め、真実を浮き彫りにするのが私だ。まるで、繊細な彫刻家さながらに。
今日も私は、謎に餓える。
桐ケ谷市立笹野原小学校、三階、六年一組の教室——。
私、つまり二階堂未来は、“表向きは”小学六年生であった。
「あははっ! 未来ちゃぁーん、おはよぉ〜! きゃははっ」
教室に一歩入った私の背後に、きゃぴきゃぴしたうざったい声と何やら強烈な衝撃が駆け巡る。私は床に仰向けに倒れ伏し、素早く背後を振り返った。
秋川袖子と『乙女クラブ』のメンバー数人が、私を意地悪い目で見つめていた。口元はにやにやと引き攣っている。
「今日もまた、そのきれぇーな顔を見せに来たのぉ? やな子ねぇ〜、きゃははっ」
そう言って、私の頬を容赦なく殴る。殴る。殴る。
殴る袖子も、その取り巻きの女子も笑っている。
きゃははははははははははははははははははははははははははははははははははっはははっはははっははははははははははははははははっははははははははははははは。
酸欠になるのではないかと心配するぐらいに、『乙女クラブ』ならぬ『いじめクラブ』のメンバーは笑い続けている。やがて、教室の外を見張っていたメンバーの「先生が来たよ!」という高らかな声で、朝の襲撃は終わった。