ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 甘くて紅い物語の先は【第一章、完結です】 ( No.20 )
- 日時: 2012/02/09 21:27
- 名前: 萌恵 ◆jAeEDo44vU (ID: amGdOjWy)
第二章 安楽椅子探偵など存在しない【第二部】
ガラッ、と小さな音を立てて教室の扉が開き、いつも厳格そうに顔を強張らせた田中先生が入ってきた。黒縁眼鏡をかけた、黒髪の男の先生。今日はいつもと違い、少し俯きがちに背中を丸めている。そんな先生の姿に私は違和感を感じた。おかしい、と思った。表情もすぅっと影を差したように暗い。私以外のクラスメイトは、遠慮無しにまだ勝手に喋り続けていた。好い加減、毎日懲りないのか。
黒板の前の教壇に立った先生が笑い声の飛び交う教室全体に向けておもむろに口を開くのを見て、クラスのほんの数人が先生の方に目を向けた。私は、何処か徒ならぬ雰囲気を察して、きゅっと目を糸のように細める。このクラスに関わる事で、何かあったのだろうか。
「えー、ゴホン、皆……悲しいニュースだ。よく聞いてくれ。……あの森が。森杏が。この小学校近くのアパートで、死体で発見された」
——話声や物音で充満していた教室が、水を打ったように一気に静かになった。
「…………」
しかし、静けさはほんの一瞬で、すぐに教室は大人びているとも幼いとも分からない話声で溢れ始めた。
何秒か前と全く同じ光景に見えるが、今、ふざけ半分で笑いながら言葉を発するものは誰一人いなかった。
私はクラスメイトから“乙女クラブの連中の前だけでは”遠ざけられているので、独りで黙って驚愕していた。今、私の思いをぶちまけても、聞いてくれる者はいない。嗚呼。
「そういえば私、今朝の『モーニングニュース』で見たよ。寝惚けてたからあんまりしっかり見なかったけど、確かに『——森杏さんが死体で発見されました』的な事言ってた様な気がする。パパが丁度仕事に行った時だから、多分六時四十五分頃かな」
「えぇっ、舞子も『モーニングニュース』見てるんだ。でも、あの番組って六時から七時まででしょう? 今日は見れなかったの! 七時に起きたんだ。いつもは六時半に起きてるのにぃ!」
「俺はニュースは見てないけど、代わりに事件現場は見たぜ。昨日の十二時ぐらいに、亮と一緒に。パトカーとか警察がめっちゃ出入りしてて、黄色いテープが張り巡らされてた! なあ、亮」
「あぁ、あれは凄かった。ドラマでしか警察を見たこと無かったのに……。ヤバい空気を感じて、すぐにアパートの前の道路から立ち去ったんだ。だって、刑事とか鑑識……だっけ? それがうろうろしてんだもん」
「えぇ〜、本当? 嘘は駄目だからね」
「本当だよ!……証拠は無いけどな」
——私は訳の分からない興奮に苛まれ、膝の上に置いた拳にぎゅぅっと更に力を加えた。あの虐めっ子の森杏が……死体で発見された?
独りぼっちの私を差し置いて、教室内のざわめきはより一層大きくなっていった。