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Re: 紅い血飛沫と狂った少女達【プロローグ更新!】 ( No.9 )
日時: 2012/01/29 20:55
名前: 萌恵 ◆jAeEDo44vU (ID: amGdOjWy)

第一章 僕の世界は異常無し【第一部】

 平成二四年、一月二十二日、日曜日——。
 午前七時三十分頃。
 僕こと美野原香奈は、二階の自室のベッドの上にて、先程から呑気にも大欠伸を連発していた。上半身は既に起こし、下半身だけ綺麗な桜色の毛布の中に突っ込んで。まるで猫さながらに身体をぐぐぐっと伸ばしていた。
 ——普段と全く変わらない、いつもの朝だった。

「ふあぁ〜、眠〜い」
 そう独りごちて、また小さな欠伸を繰り出す。
 ふあぁ〜、ふあぁ〜、ふあぁ〜……。
 僕が寝惚け眼を擦りながらベッドから起きると、予告無しに部屋の扉が開く。僕は、素早く開け放たれた扉の向こうに目を凝らす。
 ——そこに立っていたのは僕の母、美野原由香だった。
「起きなさい、香奈! 琴乃ちゃんから電話よ、早く出なさい……もうッ、ぐずぐずしないで」
 母はそう言ってまくしたてると、この家の中にたったの一台しかない電話機がある一階に行くよう、僕を急かした。
 僕は大慌てで自室から飛び出すと、まず、シンプルなデザインの螺旋階段を駆け下りた。すぐに一階に着き、短い廊下を経てリビングルームに飛び込む。それから、壁際に設置された電話機の受話器を取る。
「もしもし……琴乃?」
 僕がおもむろに電話に出ると、相手からすぐに返事が返ってきた。鈴が鳴る様な、うっとりするほど高い声。電話を掛けてきたのはやはり、僕の心強い相談相手——宮村琴乃に違いなかった。
『嗚呼、香奈ッ! 起きるの遅すぎ〜』
「ごめんごめん。で、何の用?」
『ええ!? 香奈のお馬鹿ぁ、今日は≪Sweet time≫にお菓子買いに行こうねって……』
「あ、そっか。メインは確か、お菓子の量り売りだったんだよねぇ」
 ≪Sweet time≫とは日本語で『甘い時間』という意味で、女性——特に小中高生に人気の菓子屋である。
 店内は広く、フリルやレースやリボンで可愛く装飾され、鮮やかな青と濃い乳白色の二色で統一されている。お菓子の種類はクッキーやマカロンは勿論、カルメ焼きや練り飴、マドレーヌ、棒付きキャンディーやチョコレートまでありとあらゆるお菓子が集結していて、女の子にとってはまさに夢の店なのだ。
『ところで香奈、予定は大丈夫?』
「うん。だいじょぶ」
『なら良かった。じゃあ、“家の前の道路”で待ち合わせね』
「うん。分かった。じゃね〜」
『すぐ後でね〜』
 がちゃん……!
 僕は受話器を元に戻すと、早速着替えを取りに二階の自室に戻った。リビングルームから廊下に出て、螺旋階段を駆け上り、財布を入れた肩掛けバッグと適当な洋服を両手に、階段を駆け下りる。短い廊下からリビングルームに入り、すぐそばの白いソファに腰掛ける。
 僕はソファに腰掛けたまま、急いで洋服に着替える。
 今日は、赤いチェック柄の段々フリルのミニスカート、可愛いロゴの入った黒地のオフショルダー、それに黒のオーバーニーソックスという装い。その上から、小さな銀色の星が散りばめられた漆黒のコートに腕を通す。
 財布等が入ったバッグを肩に掛け、玄関で買ったばかりの赤いチェック柄が入ったスニーカーを履き、
「行ってきまーす」
 二階に居る母に聞こえるくらい大きな声で言うと、玄関の外に勢いよく突っ込んでいった。