ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 彼女は永久に本を読む ( No.5 )
- 日時: 2012/01/21 14:53
- 名前: 夜道 ◆kaIJiHXrg2 (ID: KjZyd1Q/)
結局、彼女の言葉に従い、寺院の中で夜が明けるのを待つ羽目に。 昼寝をしていた所為か、微塵も眠気が襲ってくる気配は無い。
昼は寝るものじゃないな。
「ところで、君はあの村から外へ出たことはあるのか? 今の、外界はどうなっている?」
村の外……近くの町までは、確かに薬を買いに行った覚えがあるが、特にこれといって珍しいものなど無かった。 石造りの建物や、出店が並んでいるだけで、人間が沢山居た。 そして、
「そうだな、魔法を見た」
確か、空飛ぶ絨毯での、町一周ツアーとか何とかを見た気がする。 それに対して、絨毯に飛行魔法を掛けただけだと悪態をついている奴も居たな。
「そうか、やはり長い時の末に魔法が栄えるか。 前文明も、そうだったよ」
「お前さ、古文書読むわ外界とか言うわ、終いには前文明ってなんだよ? お前アレか、三千歳のババアなのか?」
「失敬な、私はまだこれが本来の姿だ。 老婆などではない。 ところで、この紅茶は美味いな。 どこで手に入れたものだ?」
もう、わけがわかんねえ。 何だよ、
「どこで手に入れたって、何だ? ついでに、俺の質問に答えろよ」
「私はこの廃村に人が居るころからの住人だ。 つまり、君の言う年齢に近い。 ところで、この寺院に供え物を持って来てくれる老人が君の村にいる。 その老人の供え物に入っていたものだ。 君が村へ帰ったら、煙草は要らないと伝えてくれるとありがたい……どうした? 珍妙なものを見るような顔をして……」
いやさ、だってそういう顔するよ。 三千歳のババア? いやさ、その顔で? その姿で?
どう見たって、俺と同い年。 下手すれば、年下にも見える。 それが……三千歳?
「有り得ねェよ。 おま、マジで言ってんのか?」
「……少し黙れ、君の村の方からだ。 妙に、騒がしいな」
「そうか? 俺には何にも聞こえないんだが……」
「間違いない。 盗賊が、襲撃を掛けている。 ……ここで指をくわえてみているのは、いささか癪だな。 供え物の礼も言わねばならないだろうし、仕方ないか」
アルフィンは寺院の扉の脇に立てかけてあった剣を手に取ると、寺院の扉を開放した。 夜風が中へ吹き込むが、テーブルの上の本はその風を感じていないのか、ページがめくれるどころか、微動だにしない。
今、外へ出てはいけないって言わなかったか?
「オイ、外へ出たらこの村から出られなくなるんじゃなかったのか?」
「それは君だけだ。 私は外へ出ようと、関係ない。 外へ出たければ、これを付けろ。 ただ、二度と取れないがな」
アルフィンはローブのポケットを探ると、半透明の赤い指輪を取り出し、フランに投げ渡した。 どう見ても、ただのガラスを指輪の形にしただけ。 細工は無く、アートと称されたとしても、ただのガラクタにしか見えないくらいに下手だ。
「分かった、で、これで出れるのか?」
「ああ、私との契約が完了した。 君は毎日私の元へ来なくてはならず、私の仕事を手伝う義務が出来た。 武器は持ったか? それでは、村へ向かうとしよう」
- Re: 彼女は永久に本を読む ( No.6 )
- 日時: 2012/01/22 15:24
- 名前: 夜道 ◆kaIJiHXrg2 (ID: KjZyd1Q/)
寺院を出て直ぐに、南へ。 村の方へ走り出したフランとは別に、アルフィンはローブの背に八本の剣を背負った重装備を整えてから。
何秒か送れて村へと向かった。
「……なんでもう居るんだよ」
「いや、二百メートル程度は一瞬で動けるものだ」
寺院でも、確かに同じことがあったが……魔法って奴か? 今一、信用してないが、魔法の存在は確かにある。
ただ、空を飛んだとしてもこの速さは可笑しいし、コイツが俺の前に出てきたわけでもない。 俺の居るルートを通ることなくこの村に来たとしか、考えられないのだ。 そして、一瞬で来る事ができるという発言。
「鈍いな。 だが、先にこの馬鹿者どもに恐怖を植えつけた後でも遅くは無いだろう」
ざっと、村の人口の倍は居ようかという盗賊の村に対し、彼女は背に背負っていた剣を一本引き抜くと、構えた。 その表情は、好戦的。
鋭い刃が、炎に揺れる。
「さ、けが人を避難させてくれ。 残りも私が請け負う」
横切って逃げようとした盗賊の一人を、彼女は躊躇無くその剣で切りつけ、先頭不能へと追いやると、フランに対して笑顔を向ける。
これは、異常な光景というべきだろうか?
フランの足元にいた怪我人は、盗賊の一人。 両足に酷い切り傷を負っている。 怪我人の中に、村人の姿は無い。
「怪我人ってのは、怪我してりゃ見境無くか?」
「……当たり前だろう。 君の村の住人は、私が意地でも守り通す。 供え物の礼をしていないからな」
大槌を掲げ、向かってくる男の一撃を、彼女は平然と受け止めると、あろうことか蹴り飛ばした。 大柄な体が、軽々と吹き飛び、地面に叩きつけられ泡を吹いている。
異常な威力の一撃。 必殺技なんてレベルではない威力のそれを、彼女は常用している。 あっという間、瞬く間。 そんな表現が合う一瞬の出来事だった。
彼女の足元には、無残にも胴体が二つに引き離されたなきがらが転がり、返り血を浴び、炎に当てられ、その刃はより一層、不気味に輝いている。
「さて、フラン。 また明日、廃村の寺院に来い」