ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: ゆめたがい物語 ( No.44 )
- 日時: 2012/12/01 00:53
- 名前: 紫 ◆2hCQ1EL5cc (ID: Jk.jaDzR)
- 参照: http://mb1.net4u.org/bbs/kakiko01/image/776png.html
現在、立てこもり事件が起きている、運航会社ハチロウ本社の十階建て程のビル。普段は立ち並ぶビルの割には人通りが乏しく、少々寂れた通りなのだが、今は周囲には人だかりができて、それぞれが好奇、心配などと、様々な視線を向けていた。
そんな通りに面した飲食店の二階。店先には臨時休業の札を出し、店内では作りかけの料理が、食欲をそそる香りを出している。
「タイミング悪いったらありゃしない、まったくもう」
大通りに面した窓の下に座り込み、忌々しげにつぶやいたのは、黒髪ポニーテールの、まだ幼さの残る顔立ちをした少女だった。その手には、年頃の乙女にはあまりにも不似合いな、窓からの日差しに黒く光る狙撃銃。スコープを拭く勢いは必要以上で、その間にもぶつぶつと恨み言を並べていた。
「もう少し丁寧に拭け、えびら嬢ちゃん。傷がついたらどうするんだ」
レストランのテーブル三つ分離れたところから、男の低い声が飛んできた。
見るとそこには、二十代後半から三十代前半頃の、狙撃銃の手入れをするまだ若手の憲兵隊員。公務員にあるまじく金髪のツンツン頭で、さらに耳には銀色のピアスまでつけていた。
男の言葉に、えびらはおとなしく従い、手先だけは静けさを取り戻した。だが、それでもまだ心は穏やかではないようで、眉間にはしわが寄っていた。
その様子を見て、金髪の憲兵隊員は、一度ため息をつく。
「そんなに怒って、今度はどうした?」
「何でもないです」
えびらは、やはり刺々しい口調のまま、相手の顔も見ずに返した。男は銃をいじるのをやめて、テーブルの上のパンを勝手に拝借しながら、一言つぶやいた。
「りゅうちゃん関係か」
「……木島さんが、せっかく、私がりゅうさんと文化祭に行けるようにしようとしてくださったのに、現場に着いて話が流れてしまったんです。どう思います? 金山さん。やっぱり、私とりゅうさん、縁がないんでしょうか?」
全てを見透かされ、正直に語るえびら。顔を見ずとも声で分かる。震えていて、今にも泣き出しそうだった。
金山隊員は、そんな純情すぎる悩みを聞いて、思わず口元を緩める。笑い声は、何とか口元を引き締めて、出てこないように必死に抑えていたが。
「嬢ちゃん、縁の有る無しじゃない、こっちがどれだけ望んで、どれだけ動くかだよ」
「金山さん……」
恋愛の、人生の師とも言うべき、金山隊員。その言葉に、えびらは潤んでいた目から、とうとうこらえきれずに雫を流した。
金山隊員は、銃をフローリングの上に置くと、えびらのそばに座って、しっかり結わいたポニーテールの頭をくしゃくしゃとなでる。
「ただ、りゅうちゃんについては、もう少し我慢して、部下として支えてやってくれな。あいつの抱えてるもんが、荷が下りたら、それまでな」
金山隊員の言葉に、えびらははっと顔を上げる。だが、彼は既に立ち上がっていて、持ち場へと足を進めていた。
今は仕事だ、と少女は強引に涙を拭くと、狙撃銃の最終確認をしだした。
そんな、レストランから数軒離れた建物だった。立てこもり事件が起きているビルが、大通りを挟んでよく見える。そこに、憲兵隊は作戦所を置いていた。
その最上階。元々は会議室として使っているのだろう。それに見合う広さと設備もある。だが、今はそれだけでなく、武器に防弾盾、無線機など、一般の会議室にはないような物まで運び込まれていた。
「……すると、犯人からの接触は今のところ、要求を呑まなければ女性職員を殺す、ということだけですね?」
その窓からは、地上の人ごみの様子がよく見える。憲兵隊員達は、なんとかして無関係な人たちが現場に近づくのを止めようとしているが、どうも一筋縄ではいかないようだ。
本部から来た責任者西郷隆は、現場捜査官から現状についての説明を受けると、落ち着いた様子で窓から離れた席に腰掛けた。捜査官達はその責任者を見るなり、それぞれ顔を見合わせる。若すぎるのだ。
その反応を見て、補佐を務める木島隊員は、強面に思わず笑みを浮かべた。
「しかし、その要求を言わずに切ったんですよ。まったく、交渉する気があるんですかね? 突入します?」
現場捜査官は、面倒くさそうに白髪まじりの頭をかいた。そのまま、ちらりと現場ビルに目が行く。何の動きもない。思わず、その口からは溜息が漏れた。
「いえ、交渉可能です。むしろ、相手はちゃんと考えています。交渉担当官と話をしたほうが要求実現はしやすいですから」
そう言いながら、隆は必要なパソコン作業を進めていく。
現場捜査官はそんな様子を見ながら、まだ納得できていないようで、どこか不服そうな顔をしていた。若造に何が分かる、といった具合だろう。
それを察したのか、作業中の隆に代わって、強面の木島隊員が、穏やかそうに微笑んで口を開いた。
「人質取って立てこもるのはな、犯人側としても相当追いつめられてるんだ。何が何でも要求を呑ませないといけない。また連絡は来るさ」
優しげなその表情。どんな人間かと心配そうに目を泳がせていた現場捜査官達は、ほっとしたように表情を緩める。
ちょうどそのタイミング。そこで、木島隊員は急に真剣な表情になり、その強面、特にまぶたから頬にかけての傷から、十分すぎるほどの迫力をあふれさせた。
「逆に、安易に突入なんていうのが、一番酷い。追いつめられている相手だ。そんくらい、分かって言ったんだろうなぁ、おい」
「え、あ、い……その」
急にしどろもどろになる捜査官。助けを求めようにも、周りの現場捜査官達は全員見て見ぬ振りをし、パソコン作業なり、装備の点検なり、それぞれの作業に戻ってしまった。
木島隊員はそれを見て一つため息をつく。それと一緒に「これだから護国会は」ともつぶやいた。
「うちのリーダーは、立てこもり事件の恐ろしさ、最悪の事態の悲惨さを、十分すぎるほど良く知っている。確かにまだ若いが、ま、協力してくれや」
厳しい様子から雰囲気をがらりと変えて、顔の傷にしわをつけた満面の笑みで言葉を閉めた木島隊員。
だが、先ほど感じた穏やかさは、あの迫力ある表情と話し方を知った後故か、微塵も感じられなかった。
その時。強引に木島隊員が協力をつけた、その直後だった。部屋の電話が鳴り響く。けたたましく、それぞれの耳に突き刺さる。
それこそが、まさしく戦場に鳴り渡るときの声であった。
※URLは1200記念のイラスト的な何かです。
