ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 退廃シンドローム ( No.2 )
日時: 2012/01/22 14:13
名前: 桜坂 ◆94NvLfMa2I (ID: YFbnCp7J)

 あるいは隣の席の人と囁き合って、あるいは彼に好奇の目線を向けたりして反応は様々だった。

「視察生だからといって特別扱いはしないでください。僕は皆さんと同じように授業を受けます」

 そう言って、彼の目がすっと細まる。何故だか、背中に悪寒が走った。彼は、松岡先生に促されて教室の窓際、隅の方の席に座った。教室中が妙な熱気に包まれる。

 窓の外では、鉛色の雲が垂れこめていた。



          *


「凪、一緒に帰ろう」
「理紗!」

 学校が終わり、教室を抜けて待っていたのは中田理紗だった。腰まである長い黒髪をゆらしていた。理紗は、隣のクラスで中学生の時から友達だった。

「凪の所って視察生が来たんだろ?」

 理紗は、大きな目をさらに見開いて私に尋ねてきた。

「うん、来たよ」
「どんな感じだった?」

 畳みかけるように聞いてくる。なんて言ったらいいんだろう、私は彼の姿や雰囲気を必死に思いだした。今日一日見ていて特に変わったことはない。昼休みになると皆に囲まれていたけれど、それにもそつなく対応していた。

「えー……。なんか怖い、かな」

 声を潜めて言った。彼、三条君を見た時、何か底知れないものを感じた。視察生、というだけでは片がつかないようなもの。理紗はかなり驚いたようだった。

「ふうん、怖いか。あたしは普通に見えたけどな」

 それから理紗は帰りにどこかに寄ろうと言ってきた。それに二つ返事で了承すると、夕焼けの街にたった二人だけれど繰り出した。


「今日は散財する覚悟だ! あたしのおごりだ!」

 学校の最寄りの喫茶店にて、理紗は叫んだ。

「ありがとう! あーあ、バイトでもしようかな」

 私のさびしい財布の中身を嘆いた。だってお小遣いがあまりにも少ないのだ。バイトするっていったって、最近はあまりバイト募集をかけていない。どうしようかな、本当に。なんて思っていると理紗が素晴らしい提案を持ちかけてきた。

「よし、あたしが紹介してやろうか?」
「馬路ですか」
「おう。あ、あたしチョコレートーパフェ食べる。凪は?」
 
 私は慌ててメニューに目を落とした。

「マンゴープリンでいいや」
「適当だな。そこが凪らしいけど、いつか後悔するぞ」

 理紗は子供が悪戯をしかけたような笑顔を浮かべた。

「どういうこと?」
「気にすんな。今日はあたしのおごりだしな」

 それとこれとは話が別だ。それを言うと、理紗は豪快に笑ったのであった。