ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- 1話 「15歳とは」-僕 ら の 音 楽- ( No.1 )
- 日時: 2012/01/28 15:00
- 名前: 立目 里 (ID: pOz8vLGm)
6月。
中三になって2か月の俺は、受験生だというのに勉強もせず、『受験』という実感がわかないまま遊びほうけていた。
たたみ六畳ほどに机とベッドを無理矢理並べた、決して広いとは言えないぼろい部屋で俺はギターをならしていた。レッドホットチリペッパーズに衝撃を受けた俺は、ロックの世界へとのめり込んでいたのだ。俺が重宝しているギター。たった一本の安物エレキギター。それもこずかいを貯めに貯めてやっと買った貴重な一本。安物だけど愛している。しかしながら今の俺にはアンプはない。迫力が多いに欠ける。まあそのうち何とかして手に入れるさ。今はとりあえず練習だ。小さな古い本棚にはバンドスコアが数冊、ギター入門、初心者向けの曲、ギターのメンテナンス方法、世界のロックスター100......等々。今は頼りない感じの俺だけどたくさん練習して、勉強していつか......バンッ
「勉強しなさーいっ、こうせーーいっ!」
扉が開いて入ってきたのは......俺のおふくろ。さっきの「バンッ」でまた少し扉が変形したかもしれない。動揺して立ち上がった俺の足元がミシミシいっている。この家が崩れる日は近い。
「もう九時過ぎたんだからギターは弾かないっ。近所迷惑よ。それよりあんた勉強しなさいよ、受験生なんだからっ。高校行けなくても母さん知らないよ!」
こんな狭い部屋ででかい声出さなくても聞こえてるよ。耳が痛え。
「アンプがないんだから音そこまででかくない」
「はぁ?あんぷって何よ、勉強しないならあんぷもクソも一緒よ」
ブチッ......僕の中で何かがちぎれた。
「ああっ?もっぺん言ってみろよ、ロック馬鹿にすんじゃねえ!このくそババァ」
プチン......おふくろの中で何かがちぎれた。僕は後悔した。
「はあああ?誰がババァよ、おい。お前はクソから生まれてきたんか!勉強しねぇなら出てけこんにゃろお!」
俺はさえない男だ。そして情けない。
マジギレした母親に返す言葉の一つも見つからない。
しかしみんなは知っているだろうか。俺のおふくろの恐ろしさを。
肉屋の一人娘に生まれたおふくろは、高校を卒業したらすぐに包丁を持ち、両親と肉をさばいていた。25年間、休む事なくそれをしてきた母親の腕力の強さと、女一人で店長を任され続けてきた根性は半端ではないのだ。例えるならばド○えもんのジ○イアンの母親のような......。
そんな恐ろしい女を目前にして、俺は何と言い返すんだ?言える言葉があるとすればただ一つ。「すみません」それのみであろう。
早く一人暮らしがしたいだの、ロックスターになるだの、俺は心の中で着々と将来を思い浮かべていながら、結局は反抗もできない青二才。そもそも、ロックスターになりたいなんてただの「夢」でしかない、そう言っていたのは親父。
つまり俺ぐらいの年頃のやつってのは、夢と現実の間、大人と子どもの間をさまよう忙しい生き物なのだ。
それが、15歳なのだ。