ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: ミィツケタ… ( No.12 )
- 日時: 2012/02/10 10:49
- 名前: 久蘭 (ID: uWXzIoXb)
3話
「ただいまー。」
「お帰り、パパ。」
その日の夜。久々にパパが早く帰宅した。
「ご飯できてるけど、先にお風呂入る?」
「ああ、そうするか。」
パパの脱いだスーツを受け取ってから、私はパパの部屋に向かった。
私の家は、父子家庭だ。ママは私が11歳の時に亡くなった。原因はわからない。でも…ママはおかしい人だった。精神的に病んでいた。だから、亡くなったんだと、思う。
急に泣き出したり、ふらりと外に出たり。料理が大嫌いで、カップラーメンすら作るのを嫌がった。だから料理はその頃から私の担当。
でも、ママは何で病んでいたんだろう。それが分からない。パパは言った。私が記憶喪失になったから、ママはショックで、精神的におかしくなっちゃったんだ、って。
そう、私は記憶喪失。10歳以前の記憶がない。気づいたのは病院のベッドの中。右足を骨折していて、頭には包帯がぐるぐる巻いてあった。
‘君の名前は橘結良。10歳。もうすぐ11歳になるんだよ。僕は橘誠人。君のパパ。こっちは橘友実。君のママ。君は僕たちの一人娘。君は交通事故で記憶喪失になっちゃったんだ。ほら、頭をけがしているだろう?強く打っちゃったんだ。きっとそのせいだね。あ、そうだ。この男の子は野本巧君。君の幼馴染だよ。ママの友達の息子さんなんだ…。,
目の前に3つの顔があった。男の人、女の人、男の子。男の人がそう教えてくれた。男の人がパパで、女の人がママで、男の子が巧だった。
クローゼットにパパのスーツをしまって、下に降りる。今日はカルボナーラとサラダ。テーブルに並べて、フォークとスプーンを置いて、パパがお風呂から出てくるまで宿題をする。
今日の帰りはいつもより早かった。こういうときは、たいてい出張がある。あ、パパが出てきた。
「あ、そうだ、結良。」
タオルで頭を拭きながらそうきりだすパパ。
「悪いけど、明後日から出張に出る。2日間な。大丈夫か?」
「平気平気。心配しないで。」
予想通り。私は筆記用具をしまって、コップを出してきた。私のには麦茶を、パパのにはビールを注いで、席に着く。
「「いただきます。」」
カルボナーラを食べながら、私はふっと、今日のヨッシー達との会話を思い出す。ヨッシー、どこでやる気だろうな…。第一、ぬいぐるみとかどうする気だろう。美羽とかいっぱい持ってそうだけど、絶対寄付してくれないな。
「ねぇパパ。うちにぬいぐるみってあるかな。いらないやつ。」
「ぬいぐるみ?」
パパはカルボナーラを運ぶ手を止めた。フォークからつるりとスパゲッティが滑り落ちる。
「何に使うんだ?」
「えーっとね。今度の文化祭のバザーに出してほしいんだって。」
私はとっさにウソをついた。まさか「一人かくれんぼのため」なんて言えない。
「ん〜…ないと思うぞ。多分。」
パパは少し顔を曇らせた。え?
「どうしたの?パパ。」
「え?あ、なんでもない。ごめんな。やっぱりないと思う。」
「うん…わかった。」
やっぱり、ないか。
カルボナーラを食べ終えて、ごちそうさま、と言うと、私は食器を流しに出した。パパがまだ食べ終わってないから、食器洗いは後でやろう。とりあえず、水だけ入れておいて…。よし。OK。
私は自分の部屋に向かった。
「やっぱり、ないか〜。」
小さくつぶやいて、私はため息をつく。押し入れや戸棚の中を探してみたけど、やっぱりない。まあ、なければないで買うなり、一人かくれんぼをあきらめるなりすればいいんだけど。
押し入れを元の状態に戻していると、部屋のドアがノックされた。
「はーい。何ー?」
ドアを開けると、パパが立っていた。
「ごちそうさま。」
「あ、わかった。食器洗いするね。」
「…何してたんだ?」
パパが私の後ろで散乱している段ボール箱などを見て言った。
「押し入れの整理。」
また、とっさにウソをつく。まさか「一人かくれんぼのため」なんて言えない。
「そうか、えらいなぁ、結良。」
パパはそう言って、私の頭をなでる。何でだろう。一人娘だからなのか、パパはよくこういうことをする。もう子供じゃないのに。
「じゃ、おやすみ。」
「うん、おやすみ、パパ。」
部屋から出て、パパにお休みを言うと、私は食器を洗いにキッチンへ向かった。
モウイイカイ
マアダダヨ
モウイイカイ
モウイイヨ
ミィツケタ…