ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 『堕ちた世界の真ん中で』 ( No.1 )
日時: 2012/01/24 17:03
名前: Xオペレーター (ID: HhjtY6GF)

【001】 陸上自衛隊隊員 雪村結太side


  「うっ・・・うぅ・・・・・・」


ただ、孤独が怖い。初めて本当の孤独を感じた瞬間だった。
たまに聞こえる風の音、高層ビルの上で燃え続けている炎の音、その音が耳に届かなかったら、もう生きている実感はしない。音が聞こえることが、これほど生きることの糧になるとは思いもしなかった。
「どうしよう・・・・・・・これから・・・・・・」
手持ちは、さっき投げ捨てた拳銃一丁。あとは何もない。飴玉一つさえ、持っていない。
しかし、俺が拳銃を投げた建物はコンビニだった。
「・・・食べ物、あるだろ?」
自分に問いかけ、重い体を立ち上がらせる。コンビニの入口は軽トラックが突っ込んでいるせいで入れない。仕方なく、雑誌置き場を乗り越えて中に入った。中は、相当荒れていた。
雑誌が床を覆い、飲み物の大半が冷凍ケースから落下して散乱している。食品も、ほぼ落ちていた。
俺はパンコーナーの付近に、投げ入れた拳銃を見つけて、とりあえず拾い上げた。その時だった。

   「・・・・・・・・・・・・・・・・・・あっ・・・・・・・・・」

微かだが、店内のなかで男性の声が聞こえた。拳銃を構えて周囲を警戒し、耳を澄ませる。
しかし、声は聞こえない。
この時俺は、俺以外の人間がいる嬉しさよりも恐怖の方が大きかった。どうしてなのか、分からない。
拳銃を構えたまま、トイレの方へと足をすすめる。男女どちらのトイレにも、人の姿はない。
「・・・気のせいか。」
拳銃を構え、レジを超えてコンビニ袋を2つ取る。そして、その中にありったけの商品を入れ込んだ。お菓子にパンに、冷えていない水とお茶。そして乾電池にライターもあるだけ入れた。
満杯となった2つの袋を抱えて、コンビニを出ると車道を見渡した。生存者を探すために慎重に歩いて進んでいたが、乗り物に乗って移動したほうがよい。おそらく、この先も生存者は見つからないのだから。
車道に置き捨てられたバイクを見つけると、キーが差し込んであるか確認する。確認すると、シートを開けて、収納スペースに先ほどのコンビニ袋を無造作に入れた。
「とりあえず、レインボーブリッジにでもいってみるか。」
エンジンをかけると、アクセルを思いっきり踏んだ。
エンジン音が、東京の街に大きく鳴り響く。それほど、周囲は静かだった。




レインボーブリッジに着くと、普段は行くことのない有料の上層部へと突っ込んだ。橋の上層部も下層部も、抜け殻状態の車で一杯だ。まるで、乗っている途中に忽然と姿を消したかのような光景だ。
歩道を突っ走り、橋の中央付近で停車した。そして、東京の街を見回した。
  「・・・・・・・・予想通りだな・・・・・・」
東京のあちこちから、緑色の有毒ガスで覆い尽くされた空へと伸びる黒煙。炎はそこまでひどくない。しかし、東京湾を見て言葉を失った。港を埋め尽くすほどに、フェリーや船が転覆している。一隻の大型の船は、港に座礁してコンテナ置き場に突っ込んでいた。
玩具箱をひっくり化したかのような光景である。
「ここに来ても、結局はどうすればいいのか・・・・・・・・・」
とりあえずバイクから降り、シートを開けてコンビニ袋を探る。
お茶とオニギリを取り出し、その場で食べ始めた。食欲はないが、何か食べないと倒れてしまう。
ましてや、こんなところで倒れたら誰も助けてはくれない。
「さてと、これからどうすれば・・・・・・・・・・・・」










  「ぎゃぁぁぁぁあぁぁぁぁあああああ!!!!!!!」









突然の女性の悲鳴に、俺は持っていたお茶とオニギリを地面に落とした。
腰から拳銃を取り出し、停まっている車の上に登って周囲を見渡す。すると、1人の主婦らしき女性が走っている。

「お、おーい!!大丈夫ですか!!」


  「た、た、助けてぇぇぇ!!!息子が、息子が!!!!」


女性は途中で躓き、倒れる瞬間に車のサイドミラーに頭を打ち付けて気絶した。
「ちょ、マジかよ!!」
車から降り、女性のもとに駆け寄ろうとしたその時だった。






「が、ァアあぁぁアアァあぁぁぁぁあァアアアァ!!!!!!」






男性の声と獣の声が混ざったような、悲鳴らしき声が周囲に響く。
足を止め、車の行列に拳銃を向けた。

 「なんだよ・・・今の・・・・・・・・・」

呟いた瞬間、近くに停まっていた軽自動車が轟音を上げて、空へと吹き飛んだ。車はそのまま、海へと落ちていく。
そして、先ほどの奇妙な声の主が、姿を現した。その主を見た瞬間、俺は言葉を失った。



 人間の姿をしているが、人間ではない。

  血管が異常に浮き出て、全身の毛が抜け、目がかなり充血している。


 しかし、俺はそんなことなど目に入らなかった。



 その生物の背中には、天使のような白い羽が生え、心臓に無数の光るビー玉のような球体が埋め込まれていた。



まさに、天使の姿をした悪魔の生物だった。
「息子さん・・・・・・ご立派で・・・・・・・・・」
気絶している女性に言うと、拳銃を構えた。勝てる気はしないが、今は、生きたいという願望があった。
「殺すしかないな・・・・・・・・・」
再び車の上に登り、拳銃の焦点を未知の生物に合わせると、躊躇なく1発撃った。わき腹に、命中した。


 パン!!  ───「ぎゃぁぁあぁぁ!!!」


怪物の口から、人間の男性のような悲鳴が上がる。先ほどの獣混じりの悲鳴ではない。
怪物は一瞬こちらを睨むと、羽を大きく広げ、空高く飛び上がる。
そして、こちらめがけて急降下してきた。
「ちょ、お、おい!!マジかよ!!!」

パン!! パン!!


   パン!!


            パン!!    パン!!



   カチャ・・・・・・




怪物は空中にあるにも関わらず、素早い動きで全ての弾丸を避けた。弾が尽きた瞬間、俺は愕然とした。
目の前に向かってくる怪物に、恐怖と絶望で足が竦んで動かない。

「ぎゃァァァああアアぁぁァァあぁああアァ!!!!!」

「わ、うわぁぁぁぁ!!!!」

怪物は両手で肩を掴み、そのまま空中で肩を離した。
「ちょ、ちょ、わぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」






離された場所は、海の上だった。しかし、こんな高さから落下したら死ぬことは間違いない。
だからといって、空中に自分の命を助けてくれるようなもの等ない。存在しない。






 「・・・・・・・・・せめて・・・平和な・・・・・・世界で死にたかった・・・・・・・・・」






目を閉じ、両手を拳にする。うっすら目を開けると、ちょうど真下には転覆している大型ヨットが浮いていた。

「最悪だ・・・くそったれ・・・・・・・・・」






 周囲に、骨が折れる音と気分を悪くするような音が鳴り響く。








  変わり果てた雪村結太の死体は、そのままヨットを伝って海へと落ちた。