ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 魔人ラプソディ ( No.2 )
日時: 2012/02/17 14:36
名前: sora ◆vcRbhehpKE (ID: Rl.Tjeyz)

#1 喰えない女



 ゴシックロリータ、俗に言うゴスロリというファッションの様式がある。
そして学校にまでその格好で登校してくるようなやつは、間違いなく変人と呼んで良いだろう。
 けれど、だからなんだというのだろうか?
 そう、確かに私、『美鏡 アヤネ』は変人だ。自覚はある。
休日はおろか、平日にまで黒いゴスロリの服を着てくるような人間なのだから。
だが…私はあくまで変『人』なのである。
周りが幾ら私を変だ何だと罵ろうが、私が人間であることは決して変わり得ない。
人は、人であることから逃げられないのだ。
 ちなみに規定の制服は、たぶん今は部屋の箪笥の奥にあったと思う。
真っ黒のブレザー、白いワイシャツに黄色のリボン。灰色のミニスカート。
一瞬一秒でもあんなダサいものを着ていられる、周りの神経が信じられない。
 最初は規定の制服を着ていない、ということで先生方に見咎められ、何度も職員室に呼び出されもしたが
そのうち先生方も相手をするのが面倒になったのだろう。
学校側のプライドでもあるのか、現状では退学にもならずに済んでいる。
結果として、学園生活で私に話しかける人間はほぼ皆無となった。
最初は興味本位で話しかけてきた奴等も、相手にしないでいる内に次第に離れて行った。 
 孤立結構。
あんな甲高い声で喚き散らす品の無い奴等に紛れるなんて、考えただけで気がくるってしまいそうだ。
 だから、音楽を聴くことは好きだ。
ゴシックロリータにヘッドフォンと、ウォークマン。
私の学園生活は、おおよそそれだけあれば十分だった。
自分に似合っているとも思う。その程度には、自分の容姿にも多少の自信はある。
これだけかわいいと、もしかしたらいつの日か変態に襲われてしまうかもしれない。
そして突如白馬に乗った王子様が颯爽と自分を助けに来るかもしれない。自分の妄想に吐き気がした。
 教室を見渡すと、皆がみんな誰かとつるんでいた。
傍目も気にせず大口を開けて笑っている男子がいる。二人向きあってゲームの画面に夢中になっている二人組もいる。
素直に、馬鹿みたいだと思った。
 ただ、そんな中で、たった一人でいる少年が目に留まった。
長すぎず短すぎない程度の黒髪。黄色い紐ネクタイに黒のブレザーと、制服をきっちり着込んだ少年。
彼は本を読んでいる。いや、違った。正確には手帳を読んでいた。
何で手帳?
どうでもいいか。
騒がしく耳障りな喧騒の中で彼が手帳を読んでいる周りの空間だけが
まるで時間が止まっているかのように静かだった。
 私はああいうのとは違う。私は孤独じゃなくて、孤高なのだ。



   ♪



 全くいつも思う事だけれど、この手帳を読むのは嫌だ。
自分が普通でないと、嫌でも認識してしまうから。もしかしたら人間でないのかもしれない。
 この手帳に書かれた内容が普通の事でないのは、読めばすぐにわかってしまうことだ。
 箇条書きにされたそれは、普通の人が読んだら、たぶん引く。
 そう思って、余計嫌な気分になってしまったので、僕は手帳を閉じた。
 さて、次は誰を狙おうか。
そんなことを考えた時、たまたま教室に居たゴスロリの少女と目が合った。
 真っ白で綺麗な肌は、黒い服によく映える。
顔立ちは整っていて、もしかしたらじっとしていれば人形と間違えるかもしれない。
黒く艶のある、ツインテールにされている綺麗な長い髪もそういう印象を与えるのに一役買っていた。
まつ毛が長くて、おそらく口紅は付けていないのだろう、唇はほのかな桜色だ。
ヘッドフォンも、服装に似合うような赤と黒のツートンカラーである。
 ゴスロリの少女はしばらくこっちを見ていた後、何でもないように視線を窓へとやった。
 彼女、美鏡アヤネが誰かと迎合しているところは、少なくとも僕は見たことが無い。
ただし、それでいて彼女は、誰かの目を気にすることもなく常に正々堂々としていた。
僕の様な立ち位置を孤独といって、彼女はきっと孤高と呼んだ方がふさわしいのだろう。
 そんなことを考えていると、ようやく先生が教室へはいってきた。
もうチャイムはとっくのとうに鳴っていたのに、教室の皆が騒いでいられたのはそのためだ。
けれど、先生が入ってくると、皆はのんびりと、めいめいに自分の席に着き始めた。
全員が着席し終わるのを見計らって、先生は遅れてきた理由を説明し始める。

 理由は、この高校のある女子の死体が発見されたからだという。
ちなみにおそらくこれはまだ知られていないが、その女子を殺したのは僕だ。