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Re: 魔人ラプソディ ( No.23 )
日時: 2012/02/17 07:58
名前: sora ◆vcRbhehpKE (ID: Rl.Tjeyz)

#2 糸が切れて、事切れて



 死体が好きだ。
 動物の死体も好きだけれど、一番好きなのは人間の死体だ。
 こんな私でも、最初は普通にお人形が好きなだけだった。今でも、お人形遊びは好き。
お人形の、腕を取ったり、足とか首とか取ったり、もいだり、そうして並べるのが好き。
せっかく買ってあげたのにどうして壊すの、とよくお母さんにしかられたっけ。
 私がまだ小学生だったある日、私のおばあちゃんが死んだ。
心筋梗塞だったらしく、事切れてしまうのは一瞬だったらしい。
まだ小学生だった私には心筋梗塞という言葉は難しかった。
私が最後におばあちゃんを見たのは、お正月に遊びに行ったときだった。
その次にあったときにはもう、棺の中にいた。
 棺の中で動かないおばあちゃんを見て、何か心から湧き上がるものがあったのはそのときだ。
最初は、それが身内を失ったことに対する悲しみなのだろうと思った。
おばあちゃんはいつも私に優しかったように思う。
そういう意味では、もしかしたら両親より好きだったかもしれない。
だから、いなくなってしまって悲しいのだろう。そう思っていた。
 私の人生で次に人間の死体を見たのは、目の前でクラスメイトがトラックにはねられた時だった。
誰かが救急車を呼んでいたけれど、私には即死だとわかった。それだけ派手に血が散乱していたのを覚えている。
ぐったりと動かない、血にまみれたクラスメイトを抱きしめて
そのときは、自分が感じているものが、どうしようもない愛おしさなのだと、はっきり認識することが出来た。
それは飼い猫を抱いたときより心地よくて、あの日おばあちゃんの亡骸を見たときの感覚に近かった。
 つまりそれは、私は死体が好きなのだという事実を端的に示していた。
それ以降、どんな異性にもちっとも魅力を感じなかった。
しかし、死んでさえいればどんな人間でも愛でることが出来る自信がある。
 時にはそのことに自分が普通じゃないことに苦しみもした。
何より、死体の代わりに人形で我慢するしかないのがつらかった。
自分で自分に嘘をつき続けなければならないのが、苦しかった。
 耐え切れなくなって、母を包丁を使って手にかけたのが九月。
その現場を父に見つかったのも九月。
父が、混乱しつつ必死で問い詰めてきたのも九月。
そのとき、【魔人】が姿を現したのも九月。
 つまり私が【魔人】と契約を交わしたのは九月。
代償には左目を差し出した。代わりに私は、簡単に死体を作ることが出来るようになった。
動かなくなった両親は、生前よりもずっといとおしく感じた。

 ねえ、お父さん、お母さん。死んでも、ずっと一緒だよ。