ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 魔人ラプソディ ( No.24 )
- 日時: 2012/02/17 14:33
- 名前: sora ◆vcRbhehpKE (ID: Rl.Tjeyz)
教室に入るなり、美鏡アヤネに「おはよう」と声をかけられた。
しかも彼女は堂々たる態度で僕の席に座っている。クラスメイトの何人かが、若干困惑しているのがわかった。
朝一番から自分の席を奪われて、そういえば僕はどこに座ればいいんだろう。
一番困惑しているのは僕かもしれなかった。
クラスメイトから向けられる疑問を孕んだような視線が、若干痛い。
僕にも、どうしたらいいのかわからないというのに。
とりあえず美鏡アヤネに近づくや否や、彼女は僕に新聞の切抜きを突きつけた。
その内容は、最近この辺りで多発していた行方不明事件について。
また新たな行方不明者が出たという内容だったのだ。
例の、金髪の人食い高校生を殺したことで、その事件は一件落着と思っていたのだけれど。
しかし実際問題その切り抜かれた記事には、新たな行方不明者の名前などがちゃんと記されていた。
つまり、あの人食いが失踪事件の犯人であるという考察が外れたか、他にも犯人が居たのか。
またはまったく別の、新しい犯人が誕生したのか。
いずれにしても、連続失踪事件はまだ終わっていない。
僕の脳裏にはある可能性が浮かんだ。
「これも【魔人】と契約した人が関わっていると思わない?」
奇遇にも、僕もそう思ったところだった。
もし【魔人】と契約した人が犯人なら、この事件はその人を見つけ出す手がかりになるだろう。
そして【魔人】と契約した人間を殺す。
それが僕の役目で、生かされている理由だからだ。
ならば、今日の放課後すぐにでも調べに行ってみようか。
そう思った矢先、美鏡アヤネが口を開いた。
「ねえ。今日の放課後、屋上まで来て」
一体どうしてそうなるのだろう。
美鏡アヤネと話しているとき、僕は一方的に振り回されている気がする。
もっとも、僕は喋らないし、喋れないのだけれど。
ただ、確かに【魔人】についての話をするときは、教室よりは人の居ない屋上のほうがいいのかもしれない。
【魔人】だとか【契約】だとかいう単語を会話の中に普通に持ち出していては、変に思われるのは当然のように思った。
もっとも美鏡アヤネにとってはもう手遅れなのかもしれないと思ったけれど、喋れないので言葉には出なかった。
僕に拒否する時間も権利も与えず、美鏡アヤネは立ち上がってさっさと自分の席に着いてしまった。
そして彼女は机に突っ伏したまま微動だにしなくなった。
ヘッドフォンがないので退屈極まりないんだろう。
あの調子だと、少なくとも二時限目が終わるまでは絶対に起きないような気がした。
♪
教室の隅の彼の席で、美鏡さんが彼と話しているのを見た。
そういえば一昨日くらいに、美鏡さんは突然彼を屋上に呼び出していたっけ。
誰とも喋らない彼と、誰とも迎合しない美鏡さんという組み合わせは、
少なくとも私には何か奇妙なものだと思えた。
けれど美鏡さんは彼に話しかけながら、口元にどこか楽しげな、わくわくしたような笑みを湛えている。
いつも音楽を聴きながらどこか遠くを見ている彼女の、そんな表情を見るのは初めてなような気がした。
今の美鏡さんは、ヘッドフォンの代わりに包帯を巻いているけれどとても楽しそうだ。
お人形にしたら、とても可愛いのだろうなと思えるほどに。
「これ【魔人】と契約した人が関わっていると思わない?」
不意に、突然美鏡さんの口から出た、良く聞き覚えのある単語に反応してしまった。
美鏡さんは何か紙のようなものを彼に見せていた。たぶん、新聞の切抜きだと思った。
【魔人】と契約した人間が関わっていたと、わかったとしてあの二人はどうするつもりなのか。
大丈夫だ、と私は自分に言い聞かせた。
【魔人】の話なんて、誰か他人に話したところで誰も信じはしない、と思ったからだ。
教室に入ってきた友達、『畑野 ミサキ』が視界に入ったので、おはようと挨拶を投げかける。
彼女もおはようと私に返してくれた。ミサキちゃんは、人見知りだけど優しい子だ。
他の友達も混じってきて他愛もない会話を交わす中で、ふと思う。
もし突然に【魔人】や【契約】の話を持ち出したとして、みんなはどんな反応をするだろうか。
きっと冗談の一環だと受け止めるんだろうな、と大体の予想はついてしまった。
それと同じだ。だから特に気にする必要もないと思った。
それより、私にとっては次の獲物を誰にするかの方が重要だ。
次の獲物は、このミサキちゃんはどうだろう。おとなしくて優しくて、可愛いミサキちゃん。
彼女の笑った顔はとても可愛くて愛らしい。自分のものにしてしまいたい、とさえ思える。