ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 魔人ラプソディ ( No.6 )
日時: 2012/02/02 19:24
名前: sora ◆vcRbhehpKE (ID: GMnx0Qi.)



 僕が殺した少女の名前は『早川 ユキリ』という。
僕より一つ上の学年の彼女には、いつも悪い噂が付きまとっていたように思う。
何股かけてるだとか、平気で友達の陰口をたたくだとか、目を付けられたり、逆らったらハブられるだとか。
その半面で彼女が可愛らしい容姿で、なお且つ流行に敏感だっというのもまた事実だ。
いつも金髪でピアスを付けていて、とても目立つ格好をしていた。
髪型はいつも違っていた。昨日はシュシュで一つにまとめていたと思う。
 そして彼女は今朝、ゴミ捨て場で冷たい肉塊になっていた。
ただし首から上は見つかっておらず、太腿や腰や腕など、体中の至る所にかじられたような痕があったという。
頭が無い状態で、何故彼女だと断定できたかというと、
彼女が持っていたバッグの中に生徒手帳が入っていたかららしい。
行方不明の頭部は依然として捜索中。
 結果として、全校生徒は早退することになった。
頭を粉砕されて死んだ、早川ユキリという少女が同じ学び舎の仲間達に遺したものは
多少の戦慄と恐怖と、「今日は合法的に早退出来る」という喜びだった。
 心から彼女の死を悲しんでいる人間など、はたしてこのクラスにはいるのだろうか。
少なくともこのクラスに居る僕には、「怖い」だとかっていう類の『感想』しか聴こえてこない。
先生に至っては苛立ったような表情だ。
 もっとも、いくらそんなことに思いを馳せたって、それが僕が人間であることの証明になりはしないのだろうけれど。
むしろ、ここできれいさっぱり切り捨ててしまうのが人間らしいのかもしれない。

 さてと。思ったよりも時間が出来た。今日は誰を殺そうか?
ふとそんなことを考えた時に、再び美鏡アヤネが視界に入った。



   ♪



 どういう訳だかわからないが、どうやら早退することになったらしい。
先生方の用事でもあるのだろうか。
ずっとヘッドフォンを着けていたので、全然話を聞いていなかった。
まあ、どうでもいいか。
 いずれにしたって、私にとってはラッキーだ。
机に突っ伏した体を起こすのは苦にならなかった。
突然予定外のことが起こるのは嫌だけれど、こういうサプライズは大歓迎。
 さあ、そうと決まれば早く行こう。今日は何をしようか?
駅前のショッピングモールをぶらつこうか。
確か今日は水曜日だから、私が好きな店のショーウインドウに新しい洋服が並んでいる筈だ。
思い出した。まだ今週は、いつも読んでいる週刊誌を買っていなかった。
そういえば、今朝来るときに新しいクレープ屋が出来ていた筈だ。
 私は、人混みは苦手だ。けれど自分が好きなものを見たり、食べたりするのは楽しい。
自分が楽しければ他人は関係ないと思う。
誰かが共感しようがしなかろうが、私は私だ。
 そんなことを考えながら、遊歩道を歩いていく。
この間雪が降ったからだろうか。路傍には汚くよごれてしまった雪の塊がちらほらと残っている。
綺麗に整備された歩道は、まだ少し濡れていた。
 この駅前の通りは、私が好きな場所の一つだ。
人混みは嫌いだけれど、ここを歩いているとなぜだかとても楽しい。
甘いものを食べたり、服とかバッグとか、買う事は少ないけれど見て回ったり、
ストリートミュージシャンの路上ライブを見たり。
 今日も、そうして楽しむつもりでいた。
 だというのに、ああ、嫌だ。
誰かついてきている。
 よくある事だ。こんな格好をしているから、変な奴等に目を付けられやすいのだ。
だからこそ、そういうのは簡単に気付くことが出来るようになったけれど
やっぱり嫌なものは、何度体験しても嫌だ。
 歩く速度を早める。
けれど人混みの中、確かにそいつは私のずっと後ろを追いかけてきていた。
 ああもう、気味が悪い。
十中八九、いや絶対に、こういうのは変態だ。変『人』ではない。変『態』だ。人ですらないと言いたい。
 人ですらないといえば。
最近、この辺りで殺人事件が立て続けに起こってるってどこかで聞いたっけ。
被害者は全て、おかしな死に方をしているっていう。
まるでギロチンにでもかけたように綺麗に真っ二つにされていたり、
頭を無理矢理引っ張ったみたいに、首から引きちぎられて死んでいたり、
まるで猛獣か何かの爪の痕の様なものが残っていたり……。
 こんな都会に、猛獣が紛れ込んでいる筈はない。
 だけど確かに、それら全ての事件は何らかしらの異常性があった。
 お陰でこのところ、飽きるくらいに都市伝説が充満していた。
悪魔とか殺し屋とか魔人とか化け物とか死神とか、どれをとっても中学二年生臭いものが。
 事件が起き始めたのは今年の春先。だから、もう半年以上ずっと起こっていることになる。
聞いた限りでは、今のところは全部で十四件。
そこまで考えて、嫌な予感がした。
何故今日は突然早退になったのか。
それは十五件目の被害者が、とうとうウチの学校にも出たからじゃないのか?
 余計に、歩くのが早くなる。
まるで突然水でもかけられたような気分になった。いきなり怖くなってきた。
 そして、自分の現状に気付いて唖然とする。
考え事をしている間に、自分が来てしまっていたのは……
……人っ子ひとりいない、裏路地。

 足音で我に返って、振り返る前に、頭の辺りに激痛を感じて目の前があっというまに暗くなってしまった。
まあ、なんて使い古されたベタな展開なのでしょう。