ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 道化師は盤上で笑う ( No.3 )
- 日時: 2012/02/01 21:54
- 名前: 紅城 ◆eZsQmZilro (ID: w0.JbTZT)
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馬鹿みたいだ、と男は笑った。
満足そうに微笑みながらワインの入ったグラスを傾けた。ゆるゆるとグラスを揺らしながら一口喉に通す。
すると、一人の使用人が息を切らしつつ、部屋に入ってきた。
「皇帝!〝奴〟が此の国に来たとの情報が!」
「……そうか、来たのか!総帥に今すぐ連絡しろ!軍隊を急いで奴の現れる場所へ!」
「はっ!」
男は楽しそうに顔を歪めて、声を荒げた。
使用人は平伏すとにっこり笑ってそそくさと部屋から出て行った。
男は使用人が出て行くなり椅子から立って大きな硝子張りの窓へと向かった。
外では青い空が何処までも広がっている。男は窓の側にある長い刀を背負った。そして笑いながらぽつりと呟いた。
「さあ、道化師は何処まで観客を楽しませてくれるのかな?」
——第01話 道化師は盤上で笑う
「っくそ、何処だよ此処……!」
——男、蓮見翔太は側にあった木に拳を打ち付けた。
その声は苛立ちと恐怖、焦りに震えていた。
翔太の身に有り得ない事が起きたのだ。
ファンタジー系の小説によくある台詞であろう。
——ドアを開けたら違う世界でした☆
翔太の今の状況は正にそれだったのだ。
「うあああッ!マジで何処だよ畜生!」
周りは木、木、木。何処までも青々と生い茂る木たち。
翔太のいた場所とは似ても似つかなかった。
頭を抱えて叫ぶと、草を分けてこちらへ進んでくる音。
翔太は近くにあった棒切れを掴み、そちらへ視線を向けた。
「居ました!異端者(ヘレティック)です!」
「……!て、てめえら!誰だ!」
草の間から出てきたのは沢山の人間だった。
しかし人間というには作り物のようだと思う。作り物のような整った顔、スタイルのよさ過ぎる身体。何より声も感情が篭っておらず、まるで機械音のようだ。
「私達は国家戦闘組織人造部隊に所属している人造人間(アンドロイド)で御座います。」
「あんどろいどォ?」
「皇帝の命により貴方を捕らえさせていただきます」
人造人間だという男は翔太をがっちりと掴んだ。
その手は冷たく、思わず飛び上がってしまう。
翔太は引きずられながら空を見た。
何処までも青い空が広がっている。
今なら死ねる、そう思った。
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