ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: それ、死ねば治るよ ( No.5 )
日時: 2012/02/25 23:36
名前: 暁 ◆ewkY4YXY66 (ID: khvYzXY.)
参照: not主人公視点

『3話』

 あ、あの人、笑ってる。
初めて意識した時…つまり、ついさっきの彼の印象がそれだ。白鳥(シラトリ)先輩が自殺した、という内容からだんだん逸れていく校長の話。最初は、啜り泣きと驚きで溢れかえっていた体育館は、今は欠伸と小声のおしゃべりばかりが聞こえてくる。失礼だなぁ、と思いながらも、私も大分うんざりし始めて、辺りをきょろきょろと見回していた。そんなとき、目に留まったのは、特徴的な色と形のヘッドホン。確かあれは、彼のものだ。そう、ほとんどのクラスメイトの名前を覚えている私が、唯一名前を覚えていない、彼。こういう時くらい外せばいいのに、と思ったが、私も校則違反してるから、人のことは言えないなぁ。でも、じっと、真面目に校長の話を聞いている彼。真面目に聞いているはずなのに、なんだか違和感を覚えて彼の顔を見つめて、違和感の正体がわかった。彼は、

笑っていた。

 しかも、よく見ると彼は、ただ笑っているわけじゃない。かといって嘲笑でも苦笑でもない。偉業を成し遂げた人を讃えるような。そうかと思えば、新たな仲間を歓迎するような。不思議な雰囲気の、笑み。普段の彼からは、想像のつかないような笑みだ。…と、いっても、私は普段の彼をいまいち覚えていないのだけれど。

「    」

 …え?
校長がやっと話し終え、解散の指示が出てすぐ。微かに、彼の口が動いた。確かに、彼以外の人たちだって、小声で「終わった」だとか「帰れる」だとか、ひそひそと話している。けれど、彼は違う。絶対に違う。だって彼

ようこそ

って言ってた。
「綾部、前」
「あ、ごめん」
 再び無表情に戻った彼を、しばらくみつめていたんだけど、教室に帰るために進み始めた列に、中断せざるを得なかった。少し悔しい。憎むよ、杉山。
 教室に戻るまでは、あの笑顔と、ようこそという言葉の意味を考えていた。考えていたけど。すぐにもどった表情と、話が聞こえているとは思えないあの大きなヘッドホンを思い出し、少し危ない人なんだ、という結論に至った。それ以外、考えられなかった。


…て、あれ?彼って、誰、だっけ?クラスメイト、だったよ、ね?