ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 殺してもいいですか? 能力の無差別乱用いいでしょう? ( No.2 )
- 日時: 2012/02/05 19:21
- 名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: bJXJ0uEo)
第一幕
序章『影人に』
——ハァッ、ハァッ
暗い闇の中に誰のものか分からない荒い息が響く。こんな夜更けにトレーニングでもしている様を思わせるこの息を目印にしている二人がいた。
「影人」
「あぁ、ちゃーんと見つけてるから心配しないでくれよ」
“影人”と呼ばれた男が、獲物を見つけた獣同様舌なめずりをする。影人の目は血走っており、じょじょに息も荒々しいものに変化していく。二人が狙っている獲物は高いビル群の間の狭く細い路地にいた。このビル群、元はホームレスの巣であったが現在(いま)はヤクの受け渡し場と変わっていた。
「影人、二人目」
「うっさいな……。まぁ、見えてなかったから有り難いんだけど」
よいしょ、と団塊世代の人間が口に出しそうな決まり文句を穿きながら影人は高層ビルの屋上で胡坐をかく。先程から『影人』と呟いていた女はその横でじっと獲物を見つめていた。二人がいる高層ビルの高さは約168メートルくらいである。地上にいるよりも風が強く冷たいため、この高さから銃を撃とうとするならば防寒手袋が必須だ。だが、この二人は普段着を思わせる服装をして寒さを感じていないという雰囲気を漂わせる。
「影人、逝きましょう」
「ああ、逝ってきます」
そういうと、影人は両手を大きく広げ暗い静かな闇に溶け込んでいった。重力で引っ張られ続けている影人の体は延々と加速が続く。着ている服もバタバタと風で波打っていた。下から吹き上げる強い風を物ともせずに影人は屋上から見た路地をじっと見つめる。中に白いスーツを着た男が入っていったのだ。
「よっ!」
カツン! と革靴が大きな音を響かせる。相当な勢いが付いていたためだった。影人は地面につくが早いがビジネスマンのように革靴の音を鳴らしながら暗い路地へ迫っていった。
『影人』
耳に女の声が響き、影人は足を止める。薄っすらとたち込めて来た靄の影響で視界が段々と白く変わっていく。
終には7メートル先をみるのが精一杯になるほどだ。
『上からお許しが出たわ。どうぞ、好きなように“壊して”』
「……りょーかい」
『あら? 嬉しくないのかしら?』
「壊し方考えてんだよ、うるさい」
通信を一方的に切ると口元を緩ませにこやかな笑みを浮かばせる。軽い足取りで影人が向かうのはあの路地。影人は路地が好きだった。黒く細く、誰も気にも留めない路地で獲物を殺しても見つからなく、見つける人もいない。その獲物の死を知っているのは自分だけ……。そう考えると体の底からじんわり、じんわりと快感の渦が湧き上がってくる。その獲物の数も多ければ多いほど影人の快楽を深くしていった。
「ねぇ」
路地の目の前まで歩いてきた影人は路地に向かって問い掛ける。影人は誰かが自分を見ているのを感じ、再度口を開く。
「君達の壊し方、考え付いたんだ」
コツ、コツと靴を鳴らしながら路地を進む。狭い路地に置かれている細いパイプを見ると影人が笑顔を浮べた。
「ぐちゃぐちゃの、ばらばら死体なんてどう?」
ヤクの取引をしている二人の目の前に立ち、営業スマイルで言う。売人は瞬時に笑顔の影人にガンを飛ばした。対照的だったのは取引先の姿から見てコンビニ店員。口をパクパクとし、影人は鯉のみたい、と笑っていた。
「なぁ、にーちゃん」
「ねぇ、おじさん」
売人と同じような物言いで相手を挑発していく。売人がヤクザものなら面倒臭い奴が多いと踏んでの行動だった。その二人の様子をプルプルと小型犬のように震えるコンビニの店員が見る。
「バイバイ」
「な゛っ……!?」
言葉を紡ごうとした売人の左胸を容赦なく何かが貫く。それは銀色の刺身包丁のようなものだった。影人にビチャビチャと男の返り血が沢山付く。影人はそれを愛しいというようにうっとりとした恍惚の表情で見る。それからはもう嬲り殺しのようなものだった。一度心臓に刺した刃物で、今度は男の指を一本一本切り落していく。そのたびに影人は恍惚の表情を浮べるのだ。
「まだ続きだけど……。次はおにーさんね?」
うっとりとした表情のまま、店員に近付いていく。店員は震え、へたり込んでいた体を無理に立たせ、路地から走り逃げようとする。その行動に笑顔を見せていた影人が虫でも見るかの様な表情を浮べる。
「殺す……。ワールドエンドで、死ね」
店員の後姿にそう言うと、影人は面倒臭そうに店員とは反対側へ歩いていく。後ろを振り向いた店員は影人が消えたことに笑顔を見せる。そして心の中で『勝った!』と大きくガッツポーズをしたのも束の間、店員は体の節々から血を噴出しバタリとまるでアニメのように倒れる。店員の最後の言葉は、誰にも聞こえないもので「気持ちいい」と呟いた。