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Re: 夢、快楽、死、鼓動昂ぶる  2/22更新  コメ求む!! ( No.9 )
日時: 2012/03/25 01:48
名前: 風猫(元:風  ◆Z1iQc90X/A (ID: R33V/.C.)

   夢、快楽、死、鼓動昂ぶる 
  〜第一章 第一話第二節「前触れ 二」〜

 何時ものように歩いていく。変わらない町並み。変わらず人々は冷たく彼女を避けていく。
 ただ桐生春香が、人を拒みそう感じているからに他ならないのだが。
 いつも通学中に考えるのがあの夢の光景だ。
 自分が振う妙な力。そして、居るはずもない友達と言う存在。彼女は今学校で虐めを受けている。
 家族間の確執が露呈してそれをネタに虐める不良少女の一団があるのだ。彼女達はかねてより春香の美貌に嫉妬していたらしい。それが虐めの原動力なのは間違いないだろう。人は嫉妬や嫌悪を覚えれば容易くそれを人として見なくなる物だ。
 「あんな奴等が居なければ友達も出来るのに!」
 彼女は小さく呻くような声を出す。誰も気づくことは無い。
 そもそも気付いていても指摘するものも声を掛けるものもいないのが現実だ。自分のことしか考えていないように見えて腹が立つ。まるで自分が世界で一番不幸になったつもりになってそれを助けない人は全て悪だと思っているような感じ。
 そんな自分が春香は途轍もなく嫌いだった。
 『口に出したって何も変わらないのは分っているんだ……何か』
 少しの間彼女は瞑目する。春香の瞼に映るのはいつも彼女をを虐める三人組。
 その内の一人が暴力団の団長の娘らしく学校内でも幅を利かせている者達だ。最近は虐めの酷さも苛烈さを増している。
 そろそろ身が持たない。彼女は正直に体と相談してそう結論付けた。かといって待ていても何も起らない。
 世界はそんなに甘くは無いのだから。何か行動しなくてはならないと思っても何をしていいのか分らない。
 自分って駄目だなと彼女は溜息を吐いた。
  

 「やぁ、君? 何かお悩みのようだね?」

 先程より更に人通りの少ない場所に差し掛かったときだ。後ろから声が届く。いつもの詰まらない風景が一瞬止ったように見えた。恐る恐る彼女は後ろを振り返る。
 そこにはウェーブ掛かった派手な赤色の髪の不思議な雰囲気の男が立っている。
 黒のジャケットにジーンズ姿の中背痩躯の右目の下にある刺青が特徴的な春香より三歳から四歳程度年上の青年だ。
 「貴方……誰?」
 思いの他甘いマスクをした青年に彼女は少し戸惑いながらくぐもった声で問う。
 容姿からして何だか危険そうだが優しげな声で彼女は警戒を解いていた。
 長らく優しく声を掛けられたことがなかったのも要因だろう。春香の頬は僅かに赤らんでいた。
 彼女の問いに青年は優しげな笑みを浮べて答える。
 「僕は君の同類さ……」
 「何を言っているんですか? 私は貴方の名前をッ!」
 青年の不可解で的を射ない言葉に春香は怪訝に眉根をひそめた。
 それを見た彼は失言だったかなと小さく一人ごちて咳払いする。そして、指を組む。
 「あぁ、名前か。最近誰にも呼ばれたことが無くてね? 思い出すのに時間がかかりそうだ」
 「えっ? 貴方も寂しい人!?」
 青年は目を細め遠くを見るような風情でうそぶく。恐らく語気から本心なのだろう。彼は長い間名を呼ばれていない。
 春香は孤独な同族に会えた嬉しさと憐憫の情から口に手を当て思わず愚かな発言をする。
 失言だったと目を泳がす彼女を見て青年はなおも優しそうな表情だ。
 「あぁ、思い出した。馬達彰介……そう言う名前だ」
 まるで気にしていない様子にホッと一息つき、改めて馬達彰介と名乗った男を不思議そうな様子で彼女は見詰める。
 本当に名前を忘れていたような。それでいてそれを全く気に留めていないような、何か超然とした雰囲気が彼はからは漂う。
 
 「今はスパイダーって名乗ってる」
 唯聞く分にはニートが一人寂しく厨二病でも発症させているように見える彰介のその言葉。
 だが、春香の体はゾワリと泡立ったのだった。
 『そう言えば……夢の中で叫んでいた名前は何だっただろうか?』
 記憶を手繰り寄せた先にそのコードネームのような名称は確かにあった。偶然だろうか。
 いや、そんな偶然はありえない。そう、彼女の心が警鐘を鳴らす。

 「僕は君を良く知っている。君の下腹部にある痣のことも!」 
 誰にも言及はしていないはずなのになぜ、下腹部の痣を知っているのか。いや、唯の偶然だ。気にする必要は無い。
 春香は唇を強く噛締め痛みで同様を押さえ込もうとするが。それは所詮敵わなかった。次に男の口から発された台詞。
 「君は最近、友達も居ないはずなのに友の名を呼ぶ不可解な夢を見ているね? 痣が浮んできたのは2カ月程度前だろう?」
 彰介は淀みなく述べていく。その全てが真実でとても妄想の弾丸がマグレ辺りした偶然とは思えない。
 「アンタ、一体何なのよ!?」
 思わず春香は声を荒げた。それに対して青年は静謐とした表情で滔々と告げる。
 
 「僕は君の同類さ……」

 
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第一章 第一話第一節「前触れ 二」終り
第一章 第一話第二節「前触れ 三」へ続く