ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: ららら、ハート。 ( No.1 )
日時: 2012/02/06 22:53
名前: 遮犬 ◆.a.RzH3ppI (ID: /HF7gcA2)

この世は何らかと欠落している。
それは、とても些細なことなのかもしれない。それを知る術など、人間にはありもしないだろう。
もし、知ることが出来るとしたら、その存在は——人間ではない、架空のものなのかもしれない。架空の存在は、架空を生み出す。


——それは有り得ないはずの出来事だと、世界がそう決めていたはずだったのだ。





ポタ、ポタ、と何かが少年の体から滴り落ちる。
それは否応にも、見るだけで分かってしまう、人間には必ずあるべきものだった。
真っ赤な液体は、そのまま少年の刻まれた傷痕から滴り落ちていく。ポタ、ポタ、と留まることを知らないその血液の流れは、少年の体を真っ赤に染めていく。
しかし、当の本人である少年からすると、それは"日常茶飯事"のことなのであった。

「はぁ、やられたなぁ」

少年はため息を吐いて、自身の服を破いた。ビリビリ、という音と共に出来たその布切れを、血が滴り落ちていく傷痕へと巻いていく。よく見ると、そこには弾丸が埋め込まれていた。
貫通はしておらず、骨の部分にぶち当たって止まっているようだった。血は素早く、ポタポタという限度を超えて流れ落ちてきていた。
だが、少年は苦痛の表情一つも見せず、弾丸を何の道具も使わずに手で引きずり出した。血が一気に溢れてくる。傷痕が酷い状態になっており、弾丸が今さっきまでここにあったのだということが分かるほど、風穴がしっかりと皮膚を抉り、現れていた。

血塗れの弾丸を地面へと捨てる。そして、布切れを慣れた手つきでその腕に巻く。だが、そんなものでそれほどの怪我による出血が止められるはずもなく、どんどんと溢れてくる。

「あぁ、またやっちまったな……」

ふぅ、とため息を吐くと、少年はその場で座り込んだ。
路地裏のようだった。その薄暗い空間は、太陽の日差しなどというものは一切受け付けない。ただ、暗闇が長細く、大きく、広がっているだけだった。

「早く来てくれないと、マジで死んじまうよ」

まるで独り言でないように、誰かと話す如く、少年は喋った。確かに少年は"足を普通に動かすことが出来、更には走ることも出来た"。だが、医者を呼ぶわけでもなく、人に助けを乞うことも無く、ただ何者かを待っている。それだけの為に、こうしているのだ。
やがて、上空にあったはずの青空が曇り空へと変貌し、ゆっくりと雨が落ちてくる。少年に、ポツポツと血と共に雨がそれらを流していっていた。
その雨が降ったその時、何故か少年は笑みを浮かべる。それは——"彼女が来た"ということだから。

「やっと来たかな——雨女」

少年はゆっくり目を瞑り、そして数秒後、再び目を開けた。
少年の目の前には、髪が長く、ツインテールに纏め上げられた黒髪、黒が基調のゴスロリワンピースを着こなし、そのワンピースを着るに十分な身体、そして童顔の持ち主がそこにいた。ツインテールの上には、白色のヘッドドレスも付けていた。
その少女は、真っ黒の傘を持ち、それをゆっくりと回転させながら少年を見つめていた。少女の目は、いささか冷たい様子に感じる。

「誰が雨女なんじゃ」
「あぁ、聞いてたんだ」

声もその身体や身なりに合う高い声で、どことなく喋り方が独特的な様子を醸し出していた。
少年はおどけて聞いていたのかと返して笑ってはいるが、既に少年の周りは血で染められた水溜りが出来ており、とても惨いことになっていた。先ほど巻いた布切れは、とっくに血で真っ赤に染められている。

「……情けないな」
「そんなことはわかってるさ。とは言っても、俺にはその"感じ"がわかんないんだけどねぇ」

ヘラヘラと笑う少年に対し、少女は何も変らずにただ見つめる。そして、ゆっくりと懐から何かを取り出した。
それは、重く、黒く光る——銃だった。その銃を真っ直ぐ、ゆっくりと抵抗もしない少年の顔に向けると、

「何か、最後に言いたいことは?」
「ははっ、今更何言ってんだか。俺を"何度も殺し慣れてるクセして"」
「相変わらず減らず口だな」
「そんなことはもう知ってるだろ? あんたが俺を"初めて殺した日から"」

少年が言う言葉を、静かに聞くと、少女は突然、無表情から笑みへと変わっていき、やがて笑い声を惜しみなくぶちまけた。

「ふふふ……あはははははは! ま、そうじゃの。……それじゃあ」
「あぁ——また会おう、我が姫さんよ」


パァンッ! 

乾いた銃声が一つ、どこかの世界のどこかの路地裏で鳴り響いた。
その音は、誰も知らない。




〜ららら、ハート〜