ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: ららら、ハート。 ( No.2 )
- 日時: 2012/02/08 21:55
- 名前: 遮犬 ◆.a.RzH3ppI (ID: /HF7gcA2)
白い光が黒い光と一緒になっては消えていき、そして一瞬だけ死の恐怖のどん底まで落とされる。
その恐怖感が、何度でも慣れない。しかし、それは確かに一瞬だけで、すぐにその視界は明かりを帯びていく。あぁ、きっと死ぬ時はあのどん底からこうして明かりは灯らないのだろう。そんなことを思っていると、不意に目が覚めた。
そこは確かに自分の部屋で、周りは何も変わっていない。普通の部屋、普通の空気、普通の世界だった。
俺は此処にいる。それは誰もが認めるというわけではないけれど、少なくともそう実感しているのはその俺で間違いはなかった。
まるで寝かされていたかのようにして整えられたベッドの上から起き上がる……といきたい所だが、"復活してから"何分かは身体が麻痺するので動けない。この状態を金縛り、とでも言うのかな。また違うと思うけれど。
殺風景な白い壁紙の部屋。ベッドや空っぽの本棚、無造作に置かれた机と椅子しかない部屋だった。
麻痺状態、と先ほど言ったが、一応声も出せない。やはり復活した時のリバウンドというものはあるものらしい。……というか、確か言われたような気がする。そう、誰かに。
(この変な感じは、よく分からない。復活したなっていうのは分かる。けれど、記憶なんてものは一切無いから、何が何だか……)
心の中で言葉を繰り返す。そして確認するが、記憶という無粋なものは何一つ無い。
人生は一度きりだとよく言われるが、記憶を消すということがその人生そのものだとしたら、俺は"再び人生をやり直す"ということに当てはまるのだろうか。
「全く……お、声が出るようになったか」
全身麻痺していても、目だけはしっかりと見えていることが不思議だ。声がやっと出せた、というより、生まれて初めて声が出せたような感覚がする。これは、何故か懐かしい気のする思いだ。
次第に身体も世界に馴染めてきて、だんだんと感覚を取り戻していく。やっとのことで全身が動かせるようになったことを確認すると、ゆっくりと身体を起こし、首を何度か回してコキコキ、と音を鳴らした。
「あーあ……これで何回目の"転生"だったっけかな」
転生したという事実だけは、記憶がなくとも感覚が既に覚えてしまっていた。
第1話:邂逅の転生
生まれたという記憶は、全く無い。というより、正直に言えば俺が俺であった理由を探している、と格好つけて言うとそういうことになる。
そもそも、初めて死んだ日というものが実に曖昧な出来事だった。死んでいるはずなのに、生きている感覚。あれを人は瀕死とでも言うのだろうか。既に助からないであろう、人生のほんの少しの断片、走馬灯を見る時間、死へと誘われる間の時間。
その時間の最中、俺はこの螺旋を辿ることとなってしまった。
記憶も何も無い、とは言ったが、覚えていることは勿論、ある。それは、最後に俺を殺した奴のこと。むしろ、そいつのことを忘れてしまったら、俺は此処にはいるはずがない。
何故かといわれれば答えは簡単で、俺は俺を殺した奴にトドメをさされて殺されたが、そいつのおかげで俺は今こうして転生出来ている。言い方を変えれば、生かされているというわけだった。
部屋から出ると、とりあえずどんな家かを記憶に入れておく為に見回った。かなり広い方で、二階でも部屋がいくつもある。一軒家というより、屋敷のようだった。一階へと続く階段が螺旋状になっている。その螺旋階段を下りていくと、二つに大きく分かれた廊下があった。リビングや和室や洗面所やらの生活に必要不可欠の部屋がいくつもあった。
リビングのドアノブをゆっくりと握り締めると、ドアを開いた。
「……っ、ごくん」
リビングには、あちこちにお菓子や、食べ物が散乱していた。床が見えないぐらいに。
その中心には、ゴスロリの服を着た女の子が、何故か薄汚れた感じに、肌も黒く荒んでいる。だが、ただ食物を胃袋の中に押し込めたいというかのように、少女は食べることを止めない。一体この見た目が細い体のどの部分に入るのだろうか、この量の食物が。
ドアノブを握り締めたまま、俺はその少女を見つめてしまっていた。いや、見とれてしまっていたのかもしれない。
少女は、再びごくん、と喉を鳴らすと俺を見返してきた。その瞳は、無垢な少女とは少し違う、不思議な感じ。その大きく、可愛らしい瞳よりも今は口元の方が食べ物のカスがこびり付いている方に目がいってしまう。
俺と少女が見つめ合う形で動かずにいると、少女の方からゆっくりと、皿のようなものを俺の方へと向けて——
「おかわり」
と、俺に言ったのだった。
俺はこの瞬間、何故だか笑みが零れた。あぁ、そうだ。この少女に俺はトドメを刺された。というか、殺されたんだった。
ただ、その殺される経緯、何故そんな瀕死状態に俺がいたのかということは、分からないが……少なくとも、俺はこの少女を知っていた。
「リリス、食いすぎだよ。それと、口の周りにいっぱいついてるよ」
「む……」
ムキになったのか、いそいそとリリスは口周りを手で拭った。小さな両手で夢中になりながらやる仕草はとても可愛く思える。
俺は自然な笑みを浮かべて、ため息をひとつ吐いた。
また始まる。僕の心臓は、リリスに撃ち込まれてから、この異常な日常を送ることになってしまったのだ。
朝賀 篠(あさか しの)である俺とリリスの奇妙な出会いは、とても不具合な形で出会ってしまったから——