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Re: 動物氏族、 ( No.4 )
日時: 2012/04/27 23:17
名前: 夜坂 ◆/mY1Y8jdz. (ID: zfUJEuV5)

第一章 第四話  旅立ちの意味を知る

ギルとルァーニャ、そしてキエルは大きなヘラジカを担ぎ、自分達の領土に戻った。すると毛繕いをしているハイエナが入り口に塞がっていた。
「…………ただいま。我が神」
キエルが元の性格でハイエナに抱きつく。とても控えめで一見見ればとても厚い友情のように見えるがあくまでもこれは信仰の一種なのであって友情などと言った軽いものではない。
<…………腹が減った>
ハイエナが一つ、鳴いてそう表す。キエルは急いでヘラジカの一部を切り取り片方の膝を突いて、切り離してヘラジカを捧げる。ハイエナはそれを口で銜え何処かへ消えていった。そして、ハイエナと入れ替わったかのように優雅に歩いてきたのはライオンであった。その鬣は勇ましい彼を表すかのようだ。
今度はルァーニャがライオンに尊敬の意を込めて抱きしめた。ライオンは表情を一つも変えることはなく、それに暫く身を預けた。
<ハイエナが、森へ入っていった。すぐ戻ってくるだろう>
ルァーニャが身体を離すとライオンはそう言って、またきびすを返して何処かへ行こうとしたがそれをルァーニャが引き止める。それに対してまた堂々とした態度で<なんだ?>と問うた。
「夕飯だよ。久しぶりに一緒に食べよう。ハイエナは一緒には食べてくれないだろうから」
<ふむ、久々に同じ空間でと言うのも悪いものではないだろうな。いいぞ、準備をしてくれ>
いつも思うのだが、案外ライオンは優しい。ギルが仲間から聞いた話によればハイエナやライオンとかいう獣はまずは自らを優先し、自らの力に自惚れた最低な獣だと聞いた。まぁ、ハイエナは自らを優先するが、自分の力に自惚れてなど決して居なかった。ハイエナが自らを優先するのは自らが死んでしまってはこの世の大切なモノを見れなくなるからであり、決して自らをこの世に留めて世界を支配しようという糞のような考えではなかった。そして、ライオンは他をまずは優先した。確かにメスに命令を下したりなどはするが、彼の場合はそれは彼女達への愛情であった。メスは逞しくなくてはいけない。子を守るために強くならなくてはならない。だから、メスに狩りを体験させてその力を強めた。少なくともギルはそう信じている。あの二つの神獣が悪い獣だとは到底思えなかった。

夕餉の準備は氏族全員でテキパキと行われ、すぐに食べられる状態となった。その間にライオンは優雅に毛繕いをしていた。何処か自由と言う言葉を連想させるそれは美しいものであり、少し見惚れてしまった。
「ライオン、まずは君から自然の神々へと捧げてくれ。僕たちでは自然の神は遠すぎる。ならば一番近い存在の君が……」
<分かった。『この森の所有者、大自然の神アトロポリスよ。我々に自然の恵みを捧げてくださり感謝する。そんな貴方に感謝の意を込めて貴方の一部を与える』>
大自然の神アトロポリス。この世界で最大の神の一人である。命の宝庫とも言えるこの世界の自然を司る神であり、我々の全て。我々は自然がなければいけていけないし、自然がなければ崇めるものも何もない。アトロポリスには、最大の尊敬を。ギルはライオンが大自然の一部、つまりはヘラジカの一部を捧げる方向へと手を合わせた。ライオン族とハイエナ族も同様のことをする。この儀式は万国共通である。ウサギ族も、ライオン族も、ハイエナ族も、ドクヘビ族も、イヌ族もネコ族もクロワシ族もクジラ族も何処も全部。
儀式が、終わる。
「さぁさぁ、宴としよう。僕とライオンとその他諸々の旅立ちを祝って」
「えっ?」
「まだ行きはしないけれどね」
「吃驚した。」
「早とちりだ」
そう言ってルァーニャは笑う。他のライオン族やハイエナ族の者もけらけらと笑った。その光景が何処かウサギ族での生活を思い出し、寂しく感じてしまう。そういえば、父さんと母さんには挨拶をしなかったけどいいのだろうか。ギルの中にそんな不安が過ぎる。それを察したのか口を開いたのはキエルであった。
「…………もう、伝えた。我が神が言った、らしい」
「有難う」
「…………我が神に言え」
「今はいないからキエルさんに」
ギルはそう言って、今度はルァーニャに向き直った。それに気付いたのか気付いていないのか、表情は相も変わらずの笑顔でいた。
「教えてください」
そんな彼にギルは唐突にそんな事を言った。
「答えられることならね」
「【悪霊の聖所】に秘められた力は。」
「君の兄さんを見れば分かっただろう」
「其処を祓って何があるのですか」
「被害の拡大を防げる」
ギルの質問に次々と迷うことなく答えていく。
その会話を耳を立てて聞く氏族達は何のことかと頭に疑問符を乗せていたが次第に内容を理解し、真剣顔になる。
「まあ、気にせずいってくれ。旅はもうすぐなのだから」
最後ににこりと笑った彼は優美であった。