ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: EndsStory ( No.14 )
- 日時: 2012/03/02 01:55
- 名前: WhiteTiger (ID: J1W6A8bP)
No.10 [天文学の館(Ⅰ)]
赤レンガと赤錆の廃墟と、まだ残っている北東の森との間、そこには天文学の館と呼ばれた洋館がある
。
今は鉄骨と灰色の布に覆われその姿は見えないが、どこまでもどこまでもこだわり抜いた、
壁にはめられたタイルの数から 天井の小さな飾り1つまで 味を含んでいる、美しく見事な館であるという。
その館には、世の理を示す装飾があった。
ことさら天文学の情報は多い。たくさんの発見がここから生まれたのだ。
館の窓は365枚、一年を表す。それぞれに、その日の12時に館の真上に昇る星座や星々が、
ステンドグラスの柄として様々な比喩で描かれている。
他にも色々あるが、「空よりこの館を見る方が天体がよく分かる」とさえ言われていた。
その有名な365枚の窓の中に、1枚だけ何を表すか解らないものがある。
唯の、白い正方形。何かの記念日でもないし、空には関係のありそうな星も無い。
様々な説があるが、どれも何か違うのだ。
しかしその窓は、他のどの窓よりも大きく立派であった。
この館は取り壊され、近代的な展望台と天文研究所が置かれる予定である。
館から取れる情報は端から端まで取り尽くしてしまったからだ。
天体観測に適したこの地には、展望台を立てた方が良いという判断が下された。
この館を建てたのは、1人の、頭痛もちで気難しく虚言癖のある男だったという。
彼が生きていた頃はみんな赤レンガの街に住んでいて、銀色の街はまだ無かった。
彼の死後、銀色の街は作られ、この館は忘れ去られた。
そして数十年後、ある考古学者が館を調べて、誰も知らないことが刻まれている事を発見した。
その時の学者たちは空き巣のように館を漁った。その時の民衆たちは創設者の男を称えた。
しかし用が済めば取り壊す。
民衆は称えるのを止めて、残ったのは尾びれ背びれの付きすぎたゴシップだけだ。
皮肉なことだな。
1人の男を英雄にするのも悪人・奇人に仕立て上げるのも民衆。
正直いって男が実際はどんな人間だったかなんてどうでも良い者ばかりだ。
そういう者たちを、真実など求めない者たちを動かすのは何か。利益?好奇心?
民衆を今後どう扱うか。CLで銀色の街をひっかきまわすなら。
黒髪に緑の目の男は、しばらく布に覆われた館を見上げていたが、体の向きを変えて帰っていった。