ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: bad doream. ( No.4 )
- 日時: 2012/03/10 19:33
- 名前: 程銀 (ID: 8HOrgkFF)
Round.1−3
「…仕事放って帰国とか…頭、おかしいんじゃねえのか?」
とある喫茶店。
昼時の喫茶店は、軽いものを喉に流し込もうとする客でほぼいっぱいだった。
そこに、明らかに浮いた二人組み。
「だって、ユリが普通じゃなくなっちゃう気がしたんだよ、弟がそうなったら、様子見に行くでしょ」
「その、普通じゃなくなる気がする、ってのはどこから来る感覚だよ」
「さぁ?麗しい兄弟愛とか?」
「ふざけてねえで、本当にその弟が悪夢を見たのか見てねえのか確認して、さっさと仕事に戻るぞ、馬鹿」
「え?いや、悪夢を見ていたとしたら、助けるからね?」
乱暴な口ぶりの、二十代前半と思われる男が、露骨に顔を顰める。
黒いスーツを当然の様に着こなし、コーヒーを一口飲む。
「…馬鹿かお前」
「そうだよ」
もう一方の男も、黒スーツの男と同世代程。
黒いハイネックと薄手のチェックの上着と、ふちなしの眼鏡が目立った。
その男の馴れ馴れしい口ぶりが、黒スーツの男の神経を逆撫でしているようにも見えた。
「っていうか、ユリは絶対悪夢を見たよ。…証拠はないけど、確証はある。絶対だ。燈亜、頼むよ」
黒スーツの男…燈亜は、深くため息をつく。
「…もしも」
「うん?」
「もしも、その予想が外れたら…どう落とし前付けてくれるんだ、お前」
「えー…知らないよ。だって、外れたりしないし」
「真面目に考えろ、ユキ。…仕事放っただけでも処罰はでけぇんだよ。それに重ねて、手ぶらで戻ったら俺がどやされる」
「ざまぁ」
「殺すぞ」
本気で苛立ったのか、ハイネックの男、ユキを睨む。
「すいませんでした。…でもさ、じゃあ、もしも」
「…ああ」
「もしも、本当にユリが悪夢を見たとしたら?それで、ユリが悪夢の具現化によって死んでしまったりして、俺が『サークル』を抜けてしまったら?…そっちの損害の方が大きくない?」
ユキは手元にあったフォークを手にし、燈亜のコーヒーカップの近くに置いてあるガトーショコラをつつこうと手を伸ばす。
「誰がやるか」
「いいじゃんケチ」
燈亜はその手を掴んで止め、フォークを奪い取る。
「甘党」
「ガトーショコラはそこまで甘くねえ」
「あそ。…話の続きね、逆に言うとさ」
「…ん」
「食いながら聞くなよ」
「聞いてやってんだよ、いいから話せ馬鹿」
「ぼっちゃんマジ我が侭ー。…逆に言うと、ユリを助けたら、ユリは確実に『痣』を手に入れる。俺の弟だよ?それを『サークル』に入れたとしたら…どうよ?」
いい具合にケーキを完食した燈亜が、再びコーヒーカップに口をつける。
「…お前、賢くなったな」
「自分でもそう思うよ。留学当初は思い上がってたただの馬鹿だった」
「ああ」
「否定してください…ああ、でさ。ユリを助けるのは駄目?」
燈亜は飲み干したコーヒーのカップを、コン、と音を立ててテーブルに置く。
「…分かった…許可、する」