ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 『四』って、なんで嫌われるか、知ってる? ( No.11 )
日時: 2012/03/26 10:54
名前: 香月 (ID: Fbe9j4rM)

<第七話>




 「塁、部活行かないの?」

 私は、リビングでテレビを見ている塁に声をかける。
 今日は土曜日。塁はテニス部だから、今日は部活があるはずだ。

 「今日はコーチが休みで、部活ないんだ。蘭こそ行かないの」
 「うん…なんか気乗りしないから、サボり」
 「珍しいね」

 塁の言うとおり、私がサボるなんて、のび●が自主的に机に向かうのと同じくらい、めったにないことだ。
 この一週間、色々なことがあって、精神的に疲れきっていた。
 優等生を演じていていいことは、仮病を使っても絶対にバレないところだよなあ、とつくづく思う。

 「蘭」

 ふいに塁が話しかけてくる。

 「何?」
 「…どう思う、ジャクソンのことと、獣医さんのこと」

 その言葉を聞いて、私の脳が起き上がった。
 やっぱり、塁も考えてたんだ。

 「ジャクソンのことは…やっぱり変だと思うかな。自然になったものじゃない、人為的っぽい。まあ、当たり前だけど…」
 「俺もそう思う。 誰かがやった、としか考えようがない」
 「うん」
 「でも、自分の家族の中に、あんなことする奴はいないと思う…」
 「…うん」

 そう思いたい。
 そんな声が聞こえたような気がした。

 「…それで、獣医さんの方は…正直なんとも言えない。家出かもしれないし」
 「でも、音信不通になって、もう三日だ。俺は、そろそろ警察に届け出た方がいいと思う。携帯もいくらかけても圏外みたいだから、何か事件に巻き込まれたのかもしれない」
 「…なんでそんなこと知ってるの?奥さんと話したの?」
 「うん。会いに行った」
 「えっ」

 なんたる行動力。
 私も、さすがにそこまでしようとは思わなかった。

 「どうだった?」
 「不安そうな顔だったよ。連絡もなしに家を空けるような人じゃない、って。……それに」
 「それに?」
 「…俺たちのこと、疑ってた。口には出さなかったけど、そんな雰囲気だった」
 「……」

 そうか。よく考えたら、奥さんからすれば、私たちが一番怪しいんだ。最後に獣医さんに会ったのは、私たちなんだから。
 ……でも、私たちじゃない。
 じゃあ、誰が?
 誰がやったの?

 「……塁、あのさ」
 「うん?」

 私は黒い毛をたずさえるチワワを見た。
 昨日お父さんが買ってきたゲージの中で、ドックフードを食べている。

 「これ、私が勝手に思っただけなんだけど」
 「うん」
 「ていうか、ホントあり得ないとは思うんだけど」
 「うん、何?」
 「……ジャクソンは、さ。…もしかしたら、シ———」

 私は途中で言葉をとめる。
 電話の音にさえぎられたからだ。
 …タイミングがいいんだか悪いんだか…。
 立ち上がって、電話をとる。

 「はい、もしもし。篠原です」
 『……』
 「もしもし?…どちら様ですか?」
 『…蘭、だよ…な…』
 「……玲?」

 とは言ったものの、声がかすれていて、よく分からない。
 玲だよね…?

 「どうかしたの?」
 『…蘭…やばい、俺…血が、止まん…ない…』

 玲の弱々しい声が、途切れ途切れに聞こえる。
 …え?…今、血…って言った?

 「…玲?…ウソ?玲っ!どうしたの!?玲!!」

 ただならぬ様子に、塁がこっちへ来た。

 「誰?玲?」
 「分かんない、たぶん…な、なんか、血が止まんないって…」

 塁が眉をひそめる。

 「本当に玲?」

 受話器を差し出す私。塁が受け取る。

 「もしもし?玲?どうした?」
 『あ…塁、か…?』

 受話器から声がもれている。
 私は、耳をすまして玲の声を聞きとる。

 『俺…車に、はねられた…』
 「えっ!れ…玲、平気なの?」

 思わず声を上げる私。玲にも聞こえたらしく、荒い息と共に返事が返ってきた。

 『平気な…わけ、ねーよ』
 「そ…そうだよね」
 「周りに人、いないのか?」

 塁が冷静に尋ねる。
 そうだ、こういうときこそ、冷静にならなきゃ。

 『…い、ねえな…』
 「じゃあ、あまり動かないようにして、自分で救急車よぶしかない」
 『ムリ……』
 「え?なんで?」

 塁と私の声が重なる。
 家に電話できるぐらいなんだから、救急車だってよべるはずなんじゃ…。
 色々考えたけど、玲の次の言葉にあきれた。

 『俺…救急車よぶ…番号、知らない…』
 「…はあ!?」

 私はこのとき確信した。
 玲の脳は筋肉でできている、ということを。




 「…ねえ、シアンの鳴き声、聞いたことないよね?」
 「……そう言われてみれば…」