ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 『四』って、なんで嫌われるか、知ってる? ( No.12 )
日時: 2012/03/29 10:42
名前: 香月 (ID: Fbe9j4rM)

<第八話>



 病室の中は、白くて清潔で、静かだった。
 殺風景。無機質。
 そんな感じ。

 「…玲は、大丈夫なんですか」

 お母さん、声が少し震えてる。
 そりゃそうだ。目の前のベッドに、息子が横たわっているんだから。
 …玲は、色々な医療器具につながれていた。
 どれか一つでも取られてしまったら、死んでしまうんじゃないか。
 もしかしたらもう、話すことができないんじゃないか。
 あの笑顔を見ることは、もう無いんじゃないか。
 …そう思わせる光景だった。

 「…内臓破裂を起こしていましたが、手術で修復しました。もちろん万全とは言えませんが、とりあえず一安心、といったところですかね」
 「……よかった…ありがとうございます、先生」

 お母さんと同感だった。
 玲の命を救ってくれた。
 本当に、感謝の二文字しか出てこない。
 将来、医者になろうかな、と少し思ってしまった。

 「いえ、玲くんががんばったからですよ。…では、玲くんの目が覚めたら、ナースコールで呼んでください」
 「分かりました。本当にありがとうございました」

 お母さんの言葉に一礼し、医師と看護士が病室を出て行く。

 「……ふー」

 張り詰めていた緊張がほどける。

 「…お母さん、お父さんに電話してくるわね。玲のこと、お願い」
 「うん」
 「分かった」

 私と塁は、病室のいすに座り込んだ。
 お母さんがドアを閉める音が聞こえる。

 「…よかった、無事で」

 無事とは言えないか。
 自分の言葉に苦笑する。

 「本当に。っていうか、119番も知らないとか」
 「ね」

 やっぱり常識力は培うべきだな、とうなずいたとき。

 「う…あ…?…なんだコレ」
 「あ、玲!」

 目が覚めたみたいだ。

 「なんで俺…あれ?ここ…」
 「あんましゃべっちゃダメだ。ここは病院。玲、車にはねられたんだ」

 塁が説明する。

 「あ…ああ!思い出した……あっ、そうだ!!」

 玲が起き上がろうとして、体を動かした。

 「ちょっと、ダメだってば」

 押し戻す私。
 なんか、結構元気だな。心配して損したかも。
 少し安心する。

 「あ…悪い。ってか、聞いてくれよ!少しぐらい話したっていいだろ?」
 「まあ、少しなら」

 塁が言い終わるのと同時に、玲がまくしたてる。

 「俺さ、歩いてたら、突き飛ばされたんだよ!誰もいないのに!やばいってコレ、マジで!俺、なんかに取り付かれてんのかもしんない!」
 「…は?」

 玲の国語力の無さにあきれつつ、聞き返す。

 「どういうこと?」
 「だから、突き飛ばされる前までは誰もいなかったはずなのに、俺は誰か…っつうか何かにドンって背中押されて、そんで車にひかれたんだよ!」

 …大体分かった。
 つまり要約すると、誰もいなかったはずの道で、誰かに突き飛ばされたってことか。
 ………。

 「…記憶障害じゃないの?」

 私は冷めた目で玲を見る。

 「違うって、ガチで!誰もいなくて救急車よべなかったから、家に電話したんじゃん」
 「誰かが隠れてたんじゃないのか?」
 「それはない。道の端は石の塀だった。自分で飛び出すわけないし、何か…ユーレイとかに押されたんだって!」
 「………」

 私と塁は顔を見合わせた。



 家に帰れたのは、もう日が沈んだ後だった。

 「よかったー、玲、無事で」

 凛がほっと胸をなでおろす。

 「うん。でももしかしたら、脳がちょっとアレかも」

 もともとビミョーだけど。

 「えっ、ホント?」
 「うん…なんか、幽霊に突き飛ばされたとか言ってた」
 「えーっ、ユーレイ!?会ったのかな!?いいな〜」
 「……」

 凛の脳もビミョーだな。
 シアンをひざに乗せている凛を見て思う。

 「…ねぇ、全然関係ないんだけどね」
 「うん?」

 一変して真剣な表情になる凛。らしくない。
 思わず身構えてしまう。

 「…シアンの鳴き声、聞いたことないよね?」
 「……そういわれてみれば…」

 凛のひざの上のシアンを見る。

 鋭い犬歯が、のぞいていた。






 「……そんなわけ、ないでしょ」

 私の声が、やけにむなしく響いた。