ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 『四』って、なんで嫌われるか、知ってる? ( No.17 )
- 日時: 2012/04/28 18:16
- 名前: 香月 (ID: mt080X2r)
<第十話>
「……なんて、ウソ!ウソだよ、もー。三人とも、本気にしないでよ」
凛が、笑みを浮かべた顔の前で、手を振りながら言う。
……嘘?今の話が?
「な…なんだよ、ビビったじゃねえか」
玲が胸に手を置き、安心したようにため息をついた。
「凛、演技うまいな」
塁も、感心したように言う。
いや、安心も感心もしている場合じゃないのでは…。
今の話が冗談だなんて…到底、思えない。なんだか、真に迫るようなもの言いだった。
女優ならまだしも、凛にあんな迫真の演技ができるなんて、とてもじゃないけど……。
「……蘭?蘭ー?どうかした?」
ハッと我に返る私。凛が私の顔をのぞきこんで、手を左右に振っている。
「あ…ううん、なんでもない」
「そう?」
短くそう言って、凛は玲と話し始めた。
いつものように。
そんな凛の姿を、私はじっと見つめていた。
次の日の夜。
「凛ー、悪いんだけど、きゅうり買ってきてくれない?」
お母さんがキッチンから顔を出す。
「えぇ〜?なんで私なのー?」
不満そうに口をとがらせる凛。
いつもなら喜んで行くのに、どうしたんだろう…と思ったら、韓ドラを見ているらしかった。
最近凛は、韓流スターにハマっている。もしもう一匹動物がうちに来たら、『チャン』と名づけるんじゃないかと思う。
韓ドラのどこがいいんだろう。私には理解不能だ。
あんなのただ、「○○、大好きだよ」「△△…あたしも」「○○…」(抱き合う二人)………みたいな流れを永遠と繰り返してるだけでしょ?
そんなのより、ニュースキャスターの国際情勢についての解説を聞いていたほうが、十倍は面白いと思うんだけど。
…まあ、別にどうでもいいけどね。人それぞれだし。ていうか、なんでこんな話になったんだ?
そう思ったとき、お母さんの声が聞こえてきた。
「お母さん、その間に他のことしてたいのよ」
ああ、そうだ。凛がおつかいを頼まれていたんだった。
凛はまだブツブツと文句を言っている。
「今日、冷やし中華だから。お願い」
しかし、お母さんがそう言った瞬間。
「行ってくるね〜」
リビングを出て行く凛。冷やし中華で釣られてしまうところが、なんとももの悲しい。
まあいいや。テレビがあいたし、ニュースでも見るかな。
そう思って、リモコンを操作してニュース番組を探していたとき。
「あっ!そういえば凛、お金持っていってないわ!」
お母さんが急に思い出したように言った。
「携帯持って行ってる?」
「…ううん」
私は机の上に放置されている携帯を見て言う。
「…仕方ない、お母さんちょっと行ってくるね!」
「うん…」
凛に行かせた意味は…と思いつつ、お母さんを見送った。
本当によく似た親子だな。悪い意味で。
玄関の鍵を閉め、リビングに戻る。
「…あれ、塁」
塁が二階から下りてきていた。
シアンにドックフードをやっている。
「母さん、出掛けたのか?」
「うん。凛もね」
「そう。…そういえば蘭、玲がいつ退院するか、知ってる?」
シアンの頭をなでながら尋ねてくる塁。
「知ってるけど、なんで?」
「今日学校で、玲のクラスの担任に訊かれた」
「ああ、そういうこと。お母さんが、二週間後には退院できるって言ってたよ」
そう答えながら、私は昨日のことを思い出していた。
病室での凛の態度。明らかに何かあったとしか思えない。散歩のときも、なんか変だったし…。
「…そういえば昨日、凛が変なこと言ってたじゃん」
私は、思い切って塁に話すことにした。
「ああ、シアンが話したとか?」
「そう、それ。…私、最近凛の様子がおかしいと思うんだけど」
そう言って、ソファに座り込んだ、とき。
「あの子も可哀想よねぇ。本当のこと話してるのに、誰にも信じてもらえなくって」
———……え?
…今……?
「……塁」
が言ったの?
そう続けようとしたけれど、私の言葉は途切れた。
黒い毛の中からのぞく、ひときわ暗い眼。
吸い込まれそうな闇に染まった、眼。
…それが、私をすくませた。
目をそらしたいのに、何故かそらせない。
私の視線の先にある顔は、さも愉快そうに口元を歪めている。
その口が、動いた。
「わたし、あの子結構気に入っちゃったわ」
恐怖感を煽る、高い声。
「……え………?」
今…しゃべっ…た……?
私の胸が、早鐘のように鳴り始める。
それと同時に、チワワの横にいる塁が、何かにはじかれたように立ち上がり、二、三歩後ずさった。
「あら…そんなに怖がらなくていいわよ」
チワワの黒い目が細まる。
「別に、今すぐあなた達をどうこうしようって訳じゃないもの…そんなもったいないことしないわ」
ふふっという笑い声が、私の体をこわばらせてゆく。
「……じっくり、可愛がって、あげるから。」